どんな写真に仕上がるのか楽しみだったフィルムカメラは、スマホの登場で一変した。簡単に写真を共有できるこの時代に、そんなフィルムを感じさせるアプリが評判だ。AERA2021年3月22日号の記事を紹介する。
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なんでも作りこめる時代へのカウンターなのか。“不便”なアプリが、なにやら人気だ。
「インスタグラムの再発明!」
そんな前評判とともに、写真共有アプリ「Dispo(ディスポ)」が日本にやってきた。
使い捨てを意味する「disposable」から名付けられたアプリを開発したのは、米国の人気ユーチューバーだ。飛ぶ鳥を落とす勢いで広がる音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」よろしく招待制を採用。結果、利用者は急増し、2月半ばに日本での利用が始まるや否や、テスト版の上限1万人が一夜にして満員になった。さらに3月10日、その招待制を撤廃したことで、ユーザーがさらに増えることも予想される。
■朝9時まで見られない
アプリを立ち上げれば、画面中央にファインダーが表示される。ダイヤルを巻き上げると申し訳程度にズームがかかり、フラッシュの有無を選べる。後はシャッターを切るだけ。すこぶる簡単だ。
ただし、制約も多い。
ファインダーの小ささゆえ、自分の表情や髪形を確認する術はない。他のカメラアプリのような、写真の明るさ調整やフィルター加工、トリミングもディスポにはない。今やビデオ会議アプリにも搭載されている美肌補正ももちろんない。
極めつきは、撮影した写真が翌朝9時になるまで見ることができないという、不便のオンパレードだ。
ないない尽くしのどこに魅了されるのか。
「ディスポにはフィルムのときに感じたわくわく感があります。この感覚は久しくなかった」
そう説明してくれたのは、写真家の高畠泰志さん(45)だ。登録して3週間弱で300枚以上を撮りためたという。
「ちゃんとした写真が上がってくるかは“現像”されるまでわからない。何を撮ったのか忘れていることもあるので、意外と面白いものを撮っていたんだなと後から気づけたりするんです」(高畠さん)
■デジタル版写ルンです
ディスポで撮った写真はどこかノスタルジックだ。フィルム写真のような粒状感はないが、光量はスマホが自動調整してくれるため失敗もない。
「ロール」と呼ばれるアルバムを使えば、ほかのユーザーとも写真の共有ができる。フィルムに例えれば、“焼き増し”のようなものか。