日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。繁華街・池袋で、塩ラーメンで勝負に出た店主の愛する一杯は、愛弟子が大ケガから打ち勝って作る塩生姜ラーメンだった。
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■券売機にはない「裏そば」を作り続ける理由
ラーメン激戦区・池袋。学生や若者が多く、濃厚系やデカ盛り系の店が多い中、塩ラーメン専門店として行列を作る店がある。「塩そば専門店 桑ばら」だ。
濃厚な豚骨魚介が全盛だった2006年頃、池袋生まれの桑原雅紀さん(45)が流行と逆をいく戦略で塩ラーメン専門店として勝負に出た。タレを作らず、岩塩をそのままスープに溶かして、塩角が立ったしょっぱくてクセになる一杯。「博多豚骨ラーメンを塩で表現する」というイメージで、かための細麺を合わせ、替玉もある珍しいスタイルだ。
インパクトのある味を目指したため、賛否両論が集まることはわかっていた。しかし何を言われても頑なに味を変えず、「桑ばら」は少しずつファンを増やしていった。そして、名店が群雄割拠する池袋で人気店の仲間入りをした。
塩ラーメンの味を守り続ける一方で、同じラーメンばかりでは飽きてしまうと、限定ラーメン「裏そば」を出すことにした。券売機にはない日替わりの裏メニューで、この2月も「ホタルイカの唐揚げと焼きあごだしの中華そば」「白子と帆立の塩バターそば」など趣向を凝らす。この「裏そば」は10年以上続いていて、今や裏そばファンの常連もたくさんいるという。
「常にレシピを考えることで飽きないでいられるし、それで心のバランスを保っています。今日はどうしようかと考えるのは楽しいし、この仕事はやめられないなと思います」(桑原さん)
自分の作ったものを目の前で褒められるのが何よりもうれしく、それがラーメンにのめり込む理由だと桑原さん。オープン当時はほとんどがサラリーマンのお客さんだったが、池袋がサブカルチャーの街として知られるようになり、若者客も集まるようになった。それにつれて家賃も上がるなかで、新型コロナウイルスの感染拡大。個人店にとって厳しい状況が続くが、テイクアウトメニューの導入など、できる範囲で店を続けていきたいという。
そんな桑原さんが愛する一杯は、「桑ばら」から巣立った弟子の作る“塩生姜ラーメン”だ。