白石は、暴力描写の過激さをふくめ、若松からの影響を自他ともに認めている。しかし、若松がテーマとして取り上げた「暴力革命」を、白石は世代的にリアルに感じられなかった。今のような複雑化した時代には、その時代に即した演出や撮り方があると考えている。

「暴力は時代によってかたちを変えて続いていきます。ドメスティックバイオレンスだったり、民族差別や性暴力、児童虐待、障がい者へのヘイトクライムだったり。ぼくは社会のさまざまな不条理のなかで、弱い立場に追いやられている人、うまく生きてこられなかった人、生きることができない人、社会の底辺であえいでいる人とか、もがいている人とか、外れてしまった人を描きたいんです」

 12年10月12日、若松は深夜にタクシーにはねられ、5日後にこの世を去った。76歳だった。このとき白石の一つの青春が終わった。だが、強い反権力性を貫いた若松の魂は引き継がれている。

 昨年、ミキ・デザキが監督した慰安婦をテーマにした映画「主戦場」の「KAWASAKIしんゆり映画祭」での公開が直前で中止に追い込まれた。上映に対して抗議を受けた共催の川崎市が、主催者に懸念を伝えた結果だった。白石は即座に若松プロとともに「過剰な忖度により『表現の自由を殺す行為』」として記者会見を開き、同映画祭で上映予定だった「止められるか、俺たちを」を取り下げた。

「若松さんならどうしただろうと思ったんです。だから近くの会場で無料で上映した。抗議の意思は行動に移す必要があると考えています。公金を使うことに対する批判もあったようですが、そもそも公金とはいろいろな考えの人が出した税金です。それを公権力や一部の声、インターネットの顔の見えない人間たちの悪意に怯えてやめるなんておかしい」

 メディアの横並び風潮にも強い嫌悪感を示す。白石作品の常連俳優、ピエール瀧が昨年3月に薬物使用で逮捕されたとき、瀧が組む音楽ユニット「電気グルーヴ」の音楽が配信停止になるなど、メディアが一斉にピエール瀧という存在を消した。そんな中で白石は、瀧の出演する「麻雀放浪記2020」を、東映の協力を得てそのまま上映したのだ。

「薬物依存は病気なので治療するものです。クスリをやった人間をメディアのなかで抹殺してとりつくろおうとするだけで、問題と向き合おうとしない。もう思考停止ですよ。人間が堕ちていったり、再生したり、贖(あがな)ったり、生き直していくということを描いて、社会に問うのがメディアの中でのぼくらの役割なのに」

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