「東大卒」の看板は重い。就職戦線では無敵のパスポートだし、社会人になってからも一目置かれる。一方、看板が重荷になることも少なくない。仕事ができても「東大卒だから」、できなければ「東大卒なのに」。著者も「東大卒」の呪縛に苦しんだひとりだ。
うつ病になった銀行員、警備員、激務で倒れそうな官僚……。東大に入ったがために人生の歯車が狂った人たちの声を丹念に拾っている。「東大生」と一括りに語られがちだが、人が集まればそこには必ず格差が生まれる。家庭の経済格差、田舎と東京の情報格差、そして、絶望的な能力差。アラフォーのフリーターの「東京に出てくるべきじゃなかった」というぼやきが印象的だ。
「そうは言っても、東大出てるんだから」と言いたくなる人はぜひ読んでほしい。その考えこそが、彼らを苦しめる「東大信仰」なのだから。(栗下直也)
※週刊朝日 2020年11月6日号