日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。横浜で14年もの間自家製麺を貫き続ける職人の愛するラーメンは、ロックに憧れて上京した店主が人生をかけて作った魂の一杯だった。
【写真】矢沢永吉を愛する店主が作るロックすぎる醤油ラーメンはこちら!
■自家製麺を作り続け、小麦アレルギーに
横浜市保土ヶ谷区にある「めん処 樹(たつのき)」。相鉄線の天王町駅と星川駅のちょうど間ぐらいにあり、住宅街のど真ん中ながら14年間エリアを支え続けている名店である。創業当時はまだ珍しかった「自家製麺のつけ麺」にこだわった店で、今も変わらぬ人気を保っている。
店主の大川剛さん(47)は6年間のサラリーマン生活の後、幼い頃から好きだったラーメンの世界に飛び込んだ。麺から具材まですべて手作りを貫く「ラーメン麺工房 隠國(こもりく)」で3年間修行した後、独立した。独立前から自家製麺をやることを決めていた大川さんは2階建ての物件を借りて、店舗の2階を製麺所にした。
「自分のラーメンを作るにあたって、“誰が作ったのかわからない麺”を使いたくなかったんですよね。添加物も絶対入れたくなかったですし、そうなるとやっぱり自分で作るしかないなと」(大川さん)
当時は自家製麺の店は多くなく、情報も少なかったが、毎日麺を作りながら自分のラーメンのスープに合わせて改良を重ねていった。天候や気温などによって、水分や寝かせる時間などを微調整できるところも面白いという。創業からずっと麺を作り続けてきた大川さんは、今から2年前に小麦アレルギーになってしまう。マスクをせずに小麦粉を吸い込むと、呼吸困難になってしまうため、今は妻が代わりに製麺をしている。体力が続く限り自家製麺を続けたいというこだわりようだ。
最寄駅からは少し距離はあるが、店舗の目の前にはイオン天王町店があり、その利用客も数多く訪れていた。大型ショッピングセンターから流れてくるお客さんが売り上げの大きな柱であったことは間違いない。だが、そのイオンが店舗改装のため2020年2月に閉店してしまう。店の周りは本当にただの住宅地になってしまった。
そこに追い打ちをかけるかのように、新型コロナウイルスが襲ってきた。イオン閉店+コロナのダブルパンチで「樹」の売上は地に落ちるかと思われた。しかし、それを支えたのは地元客と常連客だった。
「イオンがなくなって一度売り上げは大きく下がりましたが、じきに戻っていったんです。地元密着で席は8席のみでずっとやってきています。常連さんに支えられながらの14年間ですね」(大川さん)