5月8日、京都での講演会。開演前に拍手が鳴りやまず、感激して、思わず声をつまらせる。電気が通っていない山奥の村で、ヘッドライトをつけて臨んだ手術、地雷や不発弾の怖さも語る(写真=江藤大作)

■どの政権とも協力して 水と食糧を確保する

 5月8日、京都で藤田の講演会が催された。話し終えた藤田に聴講者から「タリバン政権はテロ集団、悪いやつらのイメージが強い。事業の邪魔をされていないのか」と率直な質問が飛んだ。

「私たちは、(アフガンで医療活動を開始して以来)今回で6度の政変を経験しています。その都度、どの政権とも彼らのルールに従って仲良くやろうと努力してきました。こちらから政権に近づきはしません。民衆は灌漑事業を必要としています。先日、タリバン政権の幹部が用水路の視察に訪れ、これは素晴らしい、ぜひ続けてほしいとPMSの職員に言いました。誰とでも協力して水と食糧を確保したい」

 と藤田は答えた。口調は柔らかく物腰は穏やかだが毅然(きぜん)としていた。ひと言でいえば、腹がすわっている。会員2万5千人、年間約3億円の寄付を集め、そのほとんどをPMSの運営に投じるペシャワール会の新たな「顔」だ。会長の村上は、藤田の存在感をこう語る。

「中村先生が存命中、藤田さんは縁の下の力持ちでした。皆、中村先生しか見ていなかったけど、現地で20年、治安が悪化して中村先生以外の日本人スタッフが帰国してからの10年は日本で、向こうの現場を支えてきた。中村先生の思考と方法をずっと共有している。彼女の局面ごとの判断や分析、人的ネットワーク、現地語でのコミュニケーション力、そうしたものが生かされて、いまのペシャワール会がある。正直言って、藤田さんがいなかったら、中村先生が急逝された時点で、事業の継続は困難だったでしょう。真の後継者です」

 そうはいっても中村のカリスマ性を藤田に求めるのは酷だ。村上ら幹部がトロイカ体制で中村と藤田の違いを埋め、アフガニスタンを自給自足の国に変える「中村哲の夢」を継いでいる。

 ロシアのウクライナ侵攻で世界の目が東欧に集まる陰で、経済制裁と食糧や資源の高騰がアフガン庶民を死の淵(ふち)に追いつめる。瀕死(ひんし)の病人をムチ打つような国際政治に藤田たちは「生きる」ための根源的な闘いを挑んできたのだった。

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