写真家・小松健一さんが『写真家の心 詩人の眼』(本の泉社)を出版した。本書に収められているのは、大竹省二、石川文洋、竹内敏信、田沼武能、田村茂、丹野章、中村征夫、水越武、渡辺義雄……戦後日本の写真界を代表するそうそうたる写真家ついて書かれた文章や対談、インタビューである。
「なんで小松は土門さんが怖くないんだよ?」
小松さんは世界の辺境を旅してきた写真家であるとともに、中学時代から短歌に打ち込んできた文筆家、そして稀有なインタビュアーでもある。
揺さぶるような大きな体躯。どんな相手でも心を開かせてしまう茶目っ気のある笑顔。小心者の私はいつも小松さんに会うと引け目を感じてしまう。そんなわけで、小松さんときちんと会話を交わしたのは今回が初めてである。
ページをめくるたびに、「よくここまで相手の懐に入り込んで話を聞き出せたなあ」と、私は嫉妬のかたまりになってしまうのだ。例えば、こんな文章。
<たった一発、それもたまたま出くわして撮った写真が、俺の代表作とは情けねェーなあ>
林忠彦が発した生きのよい言葉をとらえ、綴っている(あの太宰治を銀座のバーのカウンターで写した名作のことだ)。「写真の鬼」と呼ばれた土門拳にもかわいがられた。「単に孫くらい歳が離れていたからでしょう」と、本人は笑うが、先輩の写真家からは「なんで小松は土門さんが怖くないんだよ?」と、嫉妬の混じりの言葉をぶつけられている(それを聞くと、ちょっとうれしい)。
洗面器でつくったラーメンを囲って食べた竹内敏信
「いま考えてみりゃ、若いのにいろいろな人たちに出会えてラッキーだったね。俺はいつもおじいちゃん連中にお茶を出していたんだよ。そうすると、『おい、ここへ来てだまって聞いてろ。勉強になるから』って。タバコを買ってきたり、丁稚小僧みたいな感じだな。だけど、そういう話をぜんぶ聞いていた」
1953年、岡山県生まれ。群馬県で育った小松さんは74年に東京・四谷に設立されたばかりの「現代写真研究所(現研)」に入学。本格的に写真を学んだ。いまも「花の一期生ですよ」というのが自慢だ。