原始の人間がこの世界に存在するありようを見た
「馬に揺られて十何時間。山のなかを探し回ったら、あの幻の民族がいたんです。モンゴル人の彼も『いたー。ツァータンがいた!』みたいな感じで。彼らの姿を見たとき、『ああ、この人たちはほんとうに自然に対してなんの疑いもなく、何千年もこの暮らしを続けている。これからもずっと続いていくんやろうな』と、思いましたね」
彼らの姿はまさに自然の一部だった。原始の人間がこの世界に存在するありようを見た気がした。そこは桃源郷のようにも感じられた。
「そんな彼らの姿を追いかけてみよう、彼から聞いた東西南北のモンゴルを巡って遊牧民を探す旅に出ようと思ったんです」
原始の生活を営んでいるように見える遊牧民だが、最先端の技術の存在も知っている。その上で彼らはこの生活スタイルを選んでいる。
「その意識のありようにすごく強さを感じたんです。その意識さえも楽園やな、と。馬でしか行けないところだから経済が入り込んでいない。木の実を食べ、家畜を養って、みたいな自然の循環のなかで暮らしている。本当に何にも依存していない。だから欲に支配されない。煩悩に支配されない。でも、ぼくらは何かに依存しないと生きていけないでしょう」
原始的な暮らしの隣に近未来がある
写真集は4つのテーマ、プラス1で構成されている。4つの扉ページには撮影地を示す緯度経度と、何やら見慣れない文字が記されている。
出だしは、地球の創生期をイメージさせる風化した大きな岩と星空の風景。そこにモンゴル語で「創生」と書かれている。そして、遊牧民の姿を写した「楽園」。社会主義の空気感が残るウランバートルの「街」。広大な砂丘の奥に突如現れた未来建築のような金色のドーム(リゾートホテルという)には「砂漠」と記されている。最後は星の世界で、宇宙へ飛び出す。
「最初は遊牧民を追っていたんですが、全然違う4つの世界を撮っていたことに途中から気づいたんです」
原始的な暮らしがあり、その隣には近未来の世界がある。その間には目まぐるしく変わる文明都市があり、その隣には地球の誕生から変わらない風景がある。
「過去から未来につながるような、全然違う世界が本当に隣り合わせに存在している。出来上がった写真を見たとき、そう思ったんです」
どこかの惑星に降り立ったら、こんな世界だった、みたいなイメージでもある。
「だから表紙の写真は宇宙船の窓みたいになってよかったと思うんです。ぼくの提案かって? いやいや本のデザイナーが丸くしたかったんじゃないですか。偶然の産物ですよ。ははは」
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)