ゲルというのはモンゴルの遊牧民を象徴する伝統的な移動式住居である(中国ではパオと呼ばれる)。しかし、それを思い浮かべただけでいきなりモンゴルに旅立ってしまうだろうか?
「でもぼく、昔からヒッチハイクで日本一周したりとか、そういうことになっているんです。ははは」(やはり、ぜんぜん説明になっていない)
どうやら、かなりぶっ飛んだ人らしい。
「いやいや、性根はふつうなんですけどね。なんか、旅に関しては、思いついたらもうすぐに行ってしまう。で、モンゴルに行っちゃったんです。5年も」
それから毎年1、2カ月、モンゴルに通うのだが、初めて首都・ウランバートルに降り立った日、「ものすごく奇跡的な出合いがあったんです」。それがモンゴル人の写真家、アレキサンダー・トゥメンジャルガル(古代の戦士みたいな名前だ)との出合いだった。
モンゴル人写真家と幻の民族を探す旅へ
その経緯については省くが、彼に「1カ月くらいどこかに写真を撮りに行きたいやけど」と、相談した。
すると、「モンゴルには4つの世界がある。東西南北に異なる暮らしの民族がいる」と語り、自らが撮影した写真を見せながら説明した。
「東には多くの人がイメージする緑の草原を馬で移動する遊牧民が住んでいる。西には鷹を狩りに使うカザフ族がいる。南にはゴビ砂漠でラクダを遊牧する民族。北の山にはトナカイを遊牧するツァータン族がいる」
ところが、「彼の作品にはツァータン族の写真がないんですよ」。それを指摘すると「馬でしかたどり着けない場所だし、なかなか見つけにくいから行ったことがない」と返ってきた(観光客向けのツァータン族は別である)。
「じゃあ、見に行きたいな、と言ったんです。見つからなくてもいいからトナカイの民族を探す旅をしようと。バスを乗り継いで近くの街まで行って、そこからツァータン族の写真を見せたりして奥地へね。そうしたら、『いやいや、危ないし、ほんとうに難しいからやめた方がいい』と。でも、話していくうちに『ぼくもいっしょに行こうかな』となって……旅に出た」
ウランバートルを取り囲む丘を越えたとたん、目の前に途方もない荒野が現れた。ランドクルーザーで走ること2週間。最後は馬に頼った。