対照的なのが、古きヨーロッパの雰囲気が残るスリランカの鉄道。
首都コロンボとセイロン島中央部の高原を結ぶ「メインライン」は、かつてイギリスが高地で栽培したセイロン茶を港まで運ぶために建設したもので、最近は「紅茶鉄道」の愛称で知られる。コロニアル時代を感じさせる施設はよく整備され、いまも使われている。
夜明け前の列車に乗ると、薄明りに照らされた青白い風景が車窓に広がった。それを背景に通学する女学生の姿にレンズを向ける。
途中のグレートウエスタン駅にも魅了された。小高い山の中腹にあるこじんまりした駅で、周囲は一面の茶畑。プラットホームには花壇があり、ピンクや赤の花がかわいらしい。その横で昼寝をする犬。
高原側の終着点に近いデモダーラ駅で「切符売り場をのぞくと、切符が硬券で、うれしくて。撮らせてください!」。
かつて日本国内で使用された車両の「第二の人生」
ベトナムでは首都ハノイと南シナ海に面したハロンを約7時間で結ぶローカル列車に乗車した。「海の桂林」と呼ばれるハロン湾は、海面から突き出た奇岩が林立し、世界遺産にも登録されるベトナムを代表する名勝地だ。
「列車の出発が朝早いんです。4時半くらい。しかも駅がハノイの郊外にあるからタクシーで行かなきゃならない」
前日にホテルでタクシーを予約するのだが、「フロントの人に説明するのが面倒くさい」。
「どこに行くの?」
「ハロン行きの列車に」
「ハロンへ行くんだったらバスのほうが早いよ」(それでは意味がない。ハロンに行くのが目的ではないのだ!)
実はこの列車、生鮮食品やそれを売るおばさんたちを載せた行商列車。車内にハンモックを吊り、寝そべりながらスマホをいじる行商のおばさん。それを囲むように野菜を詰めた大きな袋や、にわとりを入れた竹かごが並んでいる。
見どころはそれだけではない。
「なんと、この車両は南満州鉄道(※)が製造したものなんです。内装は完全に変わっていますが、満鉄の生き残りです。外装がすごく分厚い。頑丈なんですね」
東南アジアを巡る鉄道旅ではJR東海やJR北海道で使われていた車両にも出合った。かつて日本国内で使用された車両が海を渡り、「第二の人生」を送っているのだ。
経済発展とともに消えゆく東南アジアの鉄道風景
しかし、そんな昔懐かしい鉄道の風景も変わりつつあるという。
「タイはひと昔前、日本の中古車両を大量に輸入していましたが、最近は中国製の新車がどんどん入ってきています」。ほかの国でも程度の差こそあれ、似たような状況だという。
鉄道を取り巻く人々の風景も変わりつつある。
例えば、ベトナム・ハノイ駅近くにある通称「トレインストリート」。
狭い路地に線路が敷かれた人気の撮影スポットだが、「最近は安全の確保が厳しくいわれるようになってきました。こういう風景はどんどんなくなっていくと思いますね」。(昨年、ベトナム政府はこの線路沿いに立ち並ぶカフェに対して店を閉めるよう指示した)
「バングラデシュの列車も屋根の上に乗ることへの取り締まりが厳しくなってきた。ある意味、国を表す風景でしたが、そのうちに見られなくなってしまうかもしれません」
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
※ 南満州鉄道は日露戦争後から第2次世界大戦終結まで満州(現中国の東北地方)で重要な役割を果した国策会社。「満鉄」と呼ばれ、鉄道だけでなく鉱山経営なども行った。
【MEMO】米屋こうじ写真展「鉄道幻風景」
富士フイルム Imaging Plaza東京で7月29日~8月24日に開催。