「寺内貫太郎一家」等のホームドラマの脚本で一時代を画し、小説家・エッセイストとしても活躍した向田邦子。その生誕90年を記念して、向田の“本好き”の側面にスポットを当てた一冊。遺された夥しい数の蔵書から、この人の創作の原点を探っていく。

 対談の中で、ホームドラマにおける食卓の場面を混声の合唱と捉え、「たくあんを噛む音」がそれに色を添えていると表現するあたりには、食を愛し、音に鋭敏だったこの人らしい一面が刻印されている。ある家族を書くなら、その10年前も10年後も書けなければいけないという指摘にも、リアリティへのこだわりを垣間見て唸らされる。

 その他、単行本未収録のエッセイや豊富な写真もちりばめたこの本は、「向田邦子の生きた時代」を顧みる一助になるだろう。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年2月7日号