古賀茂明氏
古賀茂明氏
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「無理ですね」。

 言いにくそうに私の顔色を窺いながら答えたのは、台湾のある半導体企業関係者(A氏)だ。私の問は、「日本の半導体復活プランは成功するか」だった。

 現在、半導体で世界トップを行く台湾のTSMCは5ナノメートルレベル(1ナノメートルは10億分の一メートル。半導体回路の線幅。小さいほど技術水準が高い)の半導体の量産に入り、米国などの先端企業に供給している。現在はさらに3ナノについても試験的に供給を始めるところだ。これを追いかけるのは韓国のサムスン電子だけ。2社以外に5ナノを作れるところはない。日本が作れるのは、さらに4世代前の28/32ナノまでだ。

 今後の競争は3ナノから2ナノへと進むが、A氏によれば、7ナノが作れずに5ナノや3ナノを作ることは出来ない。したがって、10年前の4~5世代前の実力しかない日本勢が最先端半導体の世界に復帰することは最初から無理なのだ。

 ただし、これは「製造」の話で、5ナノを使った自社用の半導体の「開発・設計」には、世界のIT企業なども参入する流れになっている。アップルやメタ、テスラなどだ。日本にも、ソニー、キヤノン、ニコンなど得意分野で世界最先端を行く企業はあるが、これらの分野は主戦場とは言えないという。これからの世界を制するのは、数多くの最先端企業が、最高レベルのスパコンをとことん使いこなしAIであらゆる課題を解決できる国だが、残念ながらそうした大きな構想が日本政府にも企業にもない(ちなみに、それを実現する可能性を持つのが、あの「PEZY社」(助成金不正受給で問題となったスパコンなどのメーカー)の斉藤元章氏くらいかなという意外な話も出た。)。

 さらに彼の言葉は続く。日本企業の意思決定の遅さは、致命的だ。経営者に能力がないのだろうが、リスクを取れない企業文化も問題だ。日本企業が社内で会議を開き、稟議書を作り、役員会で決裁を取るまでに、ライバル国では1世代分の開発が終わってしまう。

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日本政府は足元を見られた?