国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■終い天神で賑わう市 京の年越し
朝のぴんと張り詰めたような底冷えの厳しさに凍えながら、身支度をする日々。京の街は、年始の準備に気ぜわしく、人々が行き交う姿で活気づく時期です。冬至を過ぎると、25日は北野天満宮の年内最後の市「終い天神(しまいてんじん)」が開かれます。参道には、注連縄(しめなわ)やお正月飾り、葉ボタン、干支の置物をはじめ、おせち料理の食材など、露店が所狭しと並び、多くの人で賑わいます。幼い頃、一年間の無病息災の御礼参りをし、お正月飾りを買ったあと「ほな、粟餅食べに行こか~」の父の声に、跳ねるようにしてついて行ったことを思い出します。今回は、北野天満宮のそばに300余年、代々受け継がれる「粟餅所・澤屋」を訪ね、年始の準備に欠かせない小物と共に、京の年越しをご紹介します。
■出来立てを味わいたい 江戸時代から受け継がれる素朴な味わいの粟餅
北野名物として広く知られ、脈々と受け継がれている「粟餅所・澤屋」は、1682(天和2)年の創業。北野天満宮の門前、趣のある古い佇まいの扉を開けるとすぐに、粟餅を作られている姿が目に飛び込んできます。つきたての粟を手で素早く丸め、すぐ隣の大きな鉢へポンと投げ込む、そしてそれをまた素早く餡で包み、皿に盛る。その一連のリズミカルな動きと速さに、目が離せません。
ほんわりと温かくぷちぷちとした食感、しっとりとした粟餅に、甘さ控えめの餡ときな粉の組み合わせ。持ち帰り用は、餡ときな粉の個数の割合を、好みで変えていただくことも出来ます。おみやげとしてとても喜ばれますが、くれぐれもその日のうちに召し上げってくださいね。素朴なその滋味深い美味しさは何度も食べたくなり、私は天神さん(毎月25日に開催)に行った時必ず寄って、ほっこりと温まっています。