承認フェンシング/胸と背中に掲げた「退職願」にはんこを押す。最終的に自分が押したはんこの数が多い人が勝ち。コートの外に出ると「早退」とみなされ、はんこを1回押せる「フリー承認」の権限が相手に。枠外にはみ出れば「未承認」(撮影/今村拓馬)
承認フェンシング/胸と背中に掲げた「退職願」にはんこを押す。最終的に自分が押したはんこの数が多い人が勝ち。コートの外に出ると「早退」とみなされ、はんこを1回押せる「フリー承認」の権限が相手に。枠外にはみ出れば「未承認」(撮影/今村拓馬)
この記事の写真をすべて見る

 ゆるキャラブームが一段落したと思えば、スポーツにも「ゆる」の風。参加することだけでなく、「誰でも楽しめること」に意義がある。

【写真】イモムシになってラグビー!? 知られざるゆるスポーツの世界

*  *  *

 体育館に威勢のいい声が響き渡る。

「よーい、出社!」

 言葉の意味もよくわからないうちに、細長い棒を持った大人3人が真剣な顔つきで相手を突き始めた。ぱっと見には、フェンシング。だが、じっと見れば、棒の先端に何かがついている。どうやら名前が書かれたはんこだった。

「お願いします! お願いします!」

 一心不乱に叫びながら、必死に動く。棒についたはんこを押すのは、お互いの胸と背中に貼られた「退職願」のプレート。「社長」「専務」「次長」などの枠が書かれてあり、その枠内にはんこを多く押した人が勝ち。たくさんの承認が得られたことになり、無事に退職が“受理”される──。

 そんな攻防が繰り広げられていたのは、東京・品川のスポーツ施設。5月に開かれた「ゆるスポーツランド2019」での一幕だ。冒頭は「承認フェンシング」という競技で、70以上ある「ゆるスポ」の一つだ。

 スポーツと言われると、ハードな動きを想像するかもしれない。だが、ゆるスポーツはその名の通り、ゆるい。他にも、イモムシのコスチュームを着てゴロゴロ転がりながらラグビーボールをパスする「イモムシラグビー」や、足つぼマットの上でいすとりゲームをする「イタイッス」、ハンドソープをつけた手でハンドボールをする「ハンドソープボール」など、ユニークな競技ばかりだ。

イタイッス/敷き詰められた足つぼマットの周りをスキップで駆け回り、サンバの音楽が止まったら中央のイスめがけてダッシュする。座れなかったら脱落(オソイッス)。突起がないライン上を渡ったら反則(ズルイッス)となる(撮影/今村拓馬)
イタイッス/敷き詰められた足つぼマットの周りをスキップで駆け回り、サンバの音楽が止まったら中央のイスめがけてダッシュする。座れなかったら脱落(オソイッス)。突起がないライン上を渡ったら反則(ズルイッス)となる(撮影/今村拓馬)

「ゆるスポ」は、広告会社に勤務する澤田智洋さんが、2016年に「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げたことが始まりだった。ゆるさが話題を呼び、いまではイベントチケットも完売する人気ぶりで、これまでに10万人が参加したという。

 設立のきっかけは、澤田さん自身のスポーツへの苦手意識だった。

「子どものころから運動が苦手で“スポーツ弱者”でした。オリンピック・パラリンピックの招致が決まったとき、大きいお祭りなのに楽しめない自分がいた。運動音痴でも楽しめるスポーツがあればと思って考えたのが、ゆるスポでした」

次のページ
運動嫌いの記者が挑戦したのは…