移動中はおびえていた小町ちゃんだったが、別宅にはすぐに慣れた。今では、到着してキャリーバッグを開けると、さっと飛び出し、お気に入りの場所で旅の疲れを癒やしているという。
「順応性が高いんです。1年ぶりに連れていっても、自分の家だってすぐにわかっていました」
賢い小町ちゃんは、能町さんを悩ませるようないたずらをしたり、爪を立てたりすることがない。
能町さんを慌てさせた事件は二つだけ。一つは、園芸用の肥料の袋を食い破っていたこと。気づいたときには袋に穴が開き、中身を食べたとしか思えない形跡があった。
■居心地を考えて新居リフォーム
「もう一つは、カレー事件です。レトルトカレーの空き袋をキッチンの三角コーナーに入れていたら、知らないうちに引っ張り出して、袋を噛んでたんです。ソファの下から、歯型が大量にある袋が出てきたときは、ものすごく心配しました。カレーには玉ねぎやスパイスも入っているし、怖かったです」
幸いなことに、どちらの事件のあとも、小町ちゃんが体調を崩すことはなかった。
「ドライフードより食いつきがいいウェットフードをあげても、一度に食べきらないくらい、ごはんに淡泊なほうだから、よけいびっくりしました。健康診断の数値は問題ないんですけど、もうちょっと食べてほしいです」
じつは、能町さんに引き取られたときの小町ちゃんは推定2歳。生まれてから14匹の猫と暮らす日々を送っていた。
「母の友だちの妹さんが飼っていた猫でした。体調が悪くなり、飼えなくなったので、母の友だちが引き取り、預け先を探していたんです。どういう状態で飼われていたのかはわからないんですけど、ふっくらしていて今と体形がほとんど変わらなかった。大事にされていたのかも」
能町さんの家に来たばかりの頃、ごはんを一気食いしていたのは、多頭飼いで競争があったからなのかもしれない。
「小町を譲られるとき、一番やさしくておとなしい子という触れ込みでした。めちゃめちゃしゃべるし、活発に遊ぶので、おとなしくはないですけど、やさしい子というのは合っていました」
能町さんたちには、間もなく引っ越しをする予定がある。階段を上り下りできる今の家は、活発な小町ちゃんには理想の環境。次の家も居心地がいいようにと、壁にキャットウォークを作るなど、リフォーム中だ。
小町ちゃんが来てからは、猫エッセーも途切れ途切れ。「かわいいしか書くことがないから」と、能町さんは話す。
「小町も自分がかわいいってわかってると思います。猫って自分の意志があって、大人な感じですよね。初めて猫を飼う私には、手がかかる子猫の時期を過ぎてからもらったことが、よかったのかも。いいとこ取りばっかりしている感じです」
(ライター・角田奈穂子)
※週刊朝日 2022年12月23日号(2023猫カレンダー付き)