桜前線が東北に上陸し、ゴールデンウィークにはいよいよ北海道に桜の花が咲きはじめます。桜というとソメイヨシノが一般的ですが、北海道の特に東のほうには、チシマザクラという桜が咲きます。このチシマザクラ、根室では日本で唯一、桜の開花宣言の標本木に採用されているのですが、その理由は…。
この記事の写真をすべて見る国後島から海を渡ってきた「チシマザクラ」。根室の清隆寺から広まった
チシマザクラは明治2年、根室の大工によって国後島から持ち帰られました。大工がこれを自宅の庭に植えると、30年後にはすっかりと根づきました。当時は「クナシリザクラ」とよばれ、毎年見事な花を咲かせていました。
国後島から持ち帰ったときは両手で抱えることができるくらいの若い木でしたが、30年経つと馬車でなければ動かせないほどに成長しました。これが根室市の清隆寺に寄贈され、「チシマザクラ」と名前をかえて根室管内などに次々と広がりました。
このように清隆寺のチシマザクラが源流となって、北海道の主に東部でチシマザクラが植えられ、毎年見事な花が咲くようになりました。今では札幌市や三笠市、幌加内町、和寒町の公園などにも植えられているほか、道内各地の山にも自生しています。
特に別海町の野付小学校のチシマザクラは、日本でもっとも大きいといわれています。明治39年ごろ、小学3年生の子どもたちが小学校の敷地に移植したもので、推定樹齢は100年。高さ6m、横幅が15mにもなる大きなチシマザクラです。
清隆寺の桜の開花情報
背が低いので木の下でお花見はできないけど、華やかな香りを近い位置で楽しめる
チシマザクラの特徴は、背が低いこと。ほかのサクラのように1本の幹が上に伸びずに、根元から枝が分かれ、斜め上や横方向に伸びるので、背が高くなりません。高くてもせいぜい5~6mです。したがって、エゾヤマザクラのように街路樹には向いていません。また、サクラの木の下にレジャーシートを広げてお花見、というわけにもいきません。お花見をするときは木の下ではなく、木の横にならざるをえません。
ただ、背は低いけれど、ほかのサクラよりも香りがたつので、花の位置が低い分、より香りを楽しむことができます。また、北のほうに咲くサクラだけあって寒さに強く、しかも丈夫で力強いので、比較的簡単に育てることができます。
花が開きはじめてから1週間から10日ほどは咲いていますが、花びらが散るころになると一気に葉が茂り、北国が本格的な春へと向かいます。
桜の開花が日本一遅い根室では、チシマザクラが開花宣言の標本木
桜前線は徐々に北上し、現在、東北地方が満開の時期を迎えています。ゴールデンウィークになるといよいよ北海道に上陸し、5月中旬には、桜前線の終着点である根室市で満開になると予想されています。
一般的に桜の開花宣言はソメイヨシノが標本木として用いられますが、根室市では1960年以来、チシマザクラを標本木として開花宣言を行います。チシマザクラが標本木になっているのは日本で唯一、根室市だけ。なんとも道東らしい標本木です。
〈根室市観光協会「日本一遅咲きの桜」〉
〈道総研「チシマザクラの魅力」〉
〈別海町「野付の千島桜」〉
根室市観光協会は5月になると毎年、清隆寺のチシマザクラを観測して、ホームページで根室の開花状況を発信しています。チシマザクラに花がポツポツと咲きはじめると、根室市民は日本一桜の遅い街に春が訪れたこと実感します。今年の根室の開花予想は5月中旬。その頃には桜前線がようやく終点を迎えます。