日本の戦後は大転換劇として語られる。焼け野原から奇跡の復興を成し遂げ、天皇は神から人間になり、民主主義が根付いた。1945年を境に国の姿はがらりと変わった。この物語から、戦後ゼロ年=終戦直後の記憶が抜け落ちている、と著者は指摘する。
焦土と化した東京にはブラックホールさながらの混沌が広がった。庶民が食べる物にも事欠く中、戦時に接収された大量の土地や物資は権力者が奪い合った。ヤミ市の利益はやくざ者が吸い上げ、東京裁判で重罪を免れた政治家とGHQとの間を取り持つフィクサー役にもなった。これらの実態を権力側が巧妙に隠してきたという。
NHKのディレクターだった著者が膨大な資料を読み解いて編み上げた労作。現代にも痕跡が残るという戦後の暗黒面を、立体的に浮かび上がらせる。
※週刊朝日 2018年12月7日号