それにしてもなぜ、水増し請求が横行していたのか。そこには、法人契約による引っ越しの“盲点”があった。
「法人契約の場合、すべての引っ越しをYHCが引き受ける代わりに割引が適用されます。なので、依頼企業は他社との相見積もりはしません。一方で、依頼企業の従業員は自分の財布からお金を出すわけではないので、打ち合わせをしても見積もりの金額が正しいかは関心が低いし、経理担当者も従業員の家にどれだけの荷物があるかなんて知らないから、YHCが出してきた請求書をそのまま支払っています。両社に信頼関係があるからこのようなやり方が成り立っているわけですが、それを逆手にとってYHCの担当者が水増し請求をしていたのです」
水増し請求の事実は、YHCの内部資料にはっきり残されている。資料1と資料2は、YHCが2011年に作成した請求書だ。請求書には、印字された数字で荷物量は「2t」、金額は「185,325円」と書かれている(赤カコミ部分)。
一方、資料3はYHCが社内で使用している「作業連絡票」だ。連絡票は、引っ越しで集荷作業をしたYHCの担当者が、引っ越し先で搬入をする担当者にどれだけの荷物量があるかを知らせる文書で、客に見せることはない。文書にも〈この帳票は使い終わったら必ずシュレッダーにかけて下さい〉と書かれてある。つまり、社外秘の文書なのだ。そのため、作業連絡票には正しい荷物量が書かれている。
資料3には、荷物量がボックスの数として「2」と書かれてある(赤カコミ部分)。ボックスとは、YHCが使用する鉄製のカゴのことで、体積は約2立方メートル。荷物の種類によって重量は異なるが、おおむね300~600キロ程度。ボックス数が2つだと計4立方メートル、重さは600~1200キロとなる。ところが、YHCは実際の荷物量の約2倍となる2トンで見積もりをしていた。
再び資料2にある手書きの数字を見てほしい。これは、槙本さんが本当の金額を計算したものだ(青カコミ部分)。