7月2日は半夏生(はんげしょう)。七十二候の一つ「半夏生(はんげじょうず)」で、夏至の第三候にあたります。サトイモ科の烏柄杓(からすびしゃく)という毒草の漢名である、「半夏(はんげ)」が生える時期の意味です。また「半夏半作」といわれ、この日以降の田植えは時期的に遅くなり収穫がままならないので、この日までに田植えを終えるものとされました。その上ややこしいことに、この半夏生の頃に花が咲き、葉が白くなる「半夏生草(はんげしょうぐさ)」という植物もあり、見頃を迎えます。ユニークな背景を持つ半夏そして半夏生は、夏の季語でもあります。一連の俳句を探ってみましょう。

半夏生草
半夏生草

笛吹の川の音色も半夏かな

植物としての半夏は、花の部分が蛇の頭部に似ていて異様ですね。専門用語で仏炎包という、肉穂花序を包む大形の苞葉の形状を指して、烏柄杓の名も付けられたのでしょう。生のままでは有毒ですが、その根茎は漢方の「半夏」となり、つわりや嘔吐、胃下垂などの治療に用いられます。こんな句もあります。

・安倍館(あべたて)の間道烏柄杓かな
<昆ふさ子>
・烏柄杓千本束にして老いむ
<飯島晴子>

この独特の仏炎包の形は目につくことからも、先に述べたように、昔から半夏は農事の目安とされてきました。その半夏が生える頃の「半夏生」は、真夏の最盛期に向かい、野も山も生き生きとエネルギーが充填される頃ですね。

・いつまでも明るき野山半夏生
<草間時彦>
・笛吹の川の音色も半夏かな
<本宮鼎三>
・鯉の口朝から強し半夏生
<藤田湘子>
・山坊に白湯沸いてゐる半夏かな
<木内彰志>

こちらが半夏(烏柄杓)
こちらが半夏(烏柄杓)

夜へ継ぐ工場の炎や半夏雨

田植えという大切な農事に関わることからでしょう、半夏生は、全国各地で様々な風習があります。田植えの終わりの目標にしたり、野菜を食べず・竹林に入らず、の物忌みをしたり、豊凶を占ったりしました。近現代は農業から距離のある人も多くなりましたが、そんな雑節の気配を引き継いだのかもしれません。現代の半夏生の俳句は、気だるく暑い夏の中の身づくろいに気を配ったり、逆に夏の密度にあえて浸るような句も見つかります。

・水がめに虫の湧きたり半夏生
<上村占魚>
・半夏生子の用ゆえにみだしなみ
<神村睦代>
・半夏生糟糠の妻起きて来ず
<樋口 博>
・半夏生女らしさをうとまれて
<岡島孝子>

半夏雨も、季語としてよく用いられます。時期的にも梅雨の後半を迎えて半夏生に降る雨は、大雨になるとされていました。各地への災害が続く昨今にも共通する警告となっています。くれぐれもこの時期の大雨には、気をつけたいものですね。

・医通ひの片ふところ手半夏雨
<大野林火>
・半夏の雨塩竈夜景母のごと
<佐藤鬼房>
・外湯まで雨傘さして半夏寒む
<清水基吉>
・磐梯をしんそこ濡らし半夏生
<阿部みどり女>
・夜へ継ぐ工場の炎や半夏雨
<角川源義>

半夏生など挿し心にくかりし

一方、半夏生の頃に花期を迎える半夏生草は、ドクダミ科の多年草。水辺に白い根茎を伸ばして群生し、6、7月頃白い小さな花がたくさん咲き、半夏生の頃に上部の葉が白くなります。受粉を仲介する虫を集めるために、葉の色を変えるのだそうです。独特の匂いが漂うこの植物は、別名は片白草(かたしろぐさ)。半夏生草の名も、花期が半夏生の頃であるからとも、葉の下半分の白色が半化粧の意であるからともいわれます。「半夏生」がそのまま、植物の半夏生草を指すことも多いです。

・半夏生草真田屋敷に咲き馴染む
<河又一爽>
・半夏生など挿し心にくかりし
<井尾望東>
・諸草に伸びたつ花穂の半夏生
<石川風女>

京都・東山の建仁寺塔頭・両足院では、約800株の半夏生の見頃を迎えています。通常は非公開の庭園は、7月12日まで初夏の特別拝観期間です。この機会に、白い可憐な半化粧の様子をご覧になってはいかがでしょうか。

【句の引用と参考文献】
『新日本大歳時記 カラー版 夏』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 夏』(講談社)
『第三版 俳句歳時記〈夏の部〉』(角川書店)

両足院の半夏生草
両足院の半夏生草
両足院の半夏生草
両足院の半夏生草