元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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ふとしたご縁で、全国の障害者が育てた自然栽培の野菜セットの存在を知り取り寄せる。段ボールの中にはドドーンとしたじゃがいも、白菜、大根などとともに、各地の収穫までのエピソードが記された冊子が同封されていた。
ちなみに「自然栽培」とは、農薬も肥料も一切使わない農法のことらしい。当然というべきか「うまくいかないこともあります」。畑からのレポートを見ると、虫や雑草に昨今の猛暑も加わり苦労と失敗の連続。効率や安定とは真逆。手間暇頼み。そして働くのは計り知れない個性に溢れる障害者たち。でも、だからいいんだと。たくさんのタイプの仕事があるからどんなタイプの人も活躍できる場がある。困って地域の助けを借りれば繋がりが生まれる……いいナ、こういう逆転の発想ってと思いつつ読んでいて、ハッとした。
これは全く他人事じゃない。
最近リスキリングっていう言葉が流行ってるそうで、人生100年時代はスキルを更新し続けねば生き残れないのだとか。求められるのは「DX人材」「AI人材」……イヤ若い人はともかく中高年にはあまりにもリアルじゃないご提案である。そもそも年を取るってデジタル化以前にあらゆる面で効率的じゃなくなるってことで、お国は1兆円の予算を投じるそうだが希望より絶望しか感じない。老人に居場所なしと言われているようだ。皆が幸せになるための効率化なはずなのに効率化に脅かされる我ら。絶対何かがヘンと思いつつ、何がどうヘンなのか物事がこんがらがりすぎてワケわからん。
そんな中だからこそ、この野菜セットが輝いて見えたのだ。耕作放棄地、障害者、伝統野菜……効率化に取り残された存在がかけ合わさり、日々わちゃわちゃしながらどっこい笑って生きている。ならば私だってどっこい生きていけるんじゃ? そんな風穴をわずかずつでも広げていくこと、そしてあわよくば繋がっていくことが、リスキリングよりも何よりも、人生後半戦を生き残っていく唯一のリアルな方策に思えたのである。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年12月26日号