しかしこれはやはり寂しい。食べ物を作る楽しみとか、料理を競う喜びは人間にしか味わえないものだし、人間の力を取り戻していかなければならない。その意味では、銀座は、料理の未来との最終戦争の場だ。

 もちろん銀座は家賃も採用する人の人件費も図抜けて高い。ビルに入居する際の保証金は、地方都市の10倍だ。家賃も、地方都市は坪当たり数千円だが、銀座ならば7万円はする。

 しかし一方で、銀座は、価格が高くても美味しいものを食べたいと望み、やって来るお客さまが、どこよりもいる。これもまた紛れもない事実だ。

 俺ののスタッフたちは、「家賃が坪当たり5万円ですか。それは安い」と言う。こういう感覚が良いのか、悪いのかは分からない。

 ただ、280円均一などをうたう格安居酒屋が1つのビジネスモデルであるように、東京の都心部で「一等地戦略」を展開するのも1つのモデルだろう。高い場所で、高い付加価値を提供してお客さまの満足を高いレベルにおく。非常にドキドキする怖い挑戦であるのだが、そういう戦略で具体的なノウハウをつくろうとする企業があってもいいのではないだろうか。

 正直に言えば、本当に怖いのだ。失敗すると、とんでもなく大きなしっぺ返しが来る。かつて私がブックオフで創造した「定価の1割で仕入れて、整えて、定価の5割で売る」というビジネスモデルとは真逆だ。

 しかしこのリスクは、飲食業界のすき間、言葉を換えれば成長の伸びしろそのものでもあると思うのだ。

●イタリアン、フレンチに続くのは「食パン」

 俺のは、イタリアンから始まってフレンチ、焼き肉、だしなどに業態を広げてきた。それぞれのこだわりや工夫が支持をいただいてきた。

 例えば社長の私が、空っぽの鍋を抱えて俺の本社近くにある「おでん俺のだし」に行き、「持ち帰りで盛ってほしい」と頼んでも、料理長は「社長といえども、それでは美味しくいただいてもらえませんから」と拒否される。それくらい一店、一店、それぞれにこだわりを持っている。

 そして、次のステップとして今、全力を注いでいるのが「俺のBakery & Cafe」だ。

 日本のパンが世界屈指の美味しさのレベルにあるのはよく知られている。しかも銀座・木村屋のように、1個100円のあんパンを一坪約1億円の銀座4丁目で対面で売ることができるという不思議な世界だ。

 あんパンでは木村屋にはかなわないので食パンに絞って取り組むことにした。プロデューサーになってくれる人材はいないかと探していたら、人づてに紹介されたのがパン職人の榎本哲さんという若者だった。

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「俺の食パン」は10年間は向かうところ敵なし