まず、「料理人を幸せにする」を理念として、次にどんなビジネスモデルが可能なのだろうかと考え始めた。実のところ私自身は、即席ラーメンも作れないほど料理ができないのだが、「どうしたら料理人が幸せになれますか」と飲食業界の人に聞きまくった。

 すると、一つわかったのが、2008年のリーマンショック以降、料理人たちが「成長する場」を失っていたことだった。真剣に一流をめざしている料理人は、老舗料亭や高級ホテル、ミシュランの星の付くレストランに活躍の場を得たがっている。しかしリーマンショック以後は店が増えず、上を目指せなくなっていたのだ。

 私は「料理人を幸せにするには、まず場をつくってあげるべきだ」と思い立った。通常、飲食業では「お客様を幸せにする」を最初に掲げるものだが、「料理人を幸せにする」ことを起点とするモデルが、既存の飲食業界にはなかった新しい何かを生むのではないかと考えたのだ。

 国内には料理人に特化して人材紹介を行う企業が10社ほどある。私は各社のリクルート担当者に対し、いい料理人に集まってもらうために、とにかく彼らが夢を見ることができそうな話をした。

「私が起ち上げたいと考えている店では、優秀で意欲のある料理人には、原価率など気にせず作りたい料理を作ってもらう」

「海外展開もする。パリはもちろんミラノ、ロンドン、ニューヨークも検討している」

 正直に言ってしまうと、このときはまだ海外展開まで考えていなかったのだが、私のこの“出まかせ”によって多くの料理人に声が掛けられ、多くの腕のいい料理人が参集してきた。

 そして「ではあなたはこの店を」「あなたはこちらの店を」と決めていった。私自身に料理のノウハウはまったくないから、一流の料理人たちにそれぞれの店舗で自由にやってもらう形になった。

 俺の1号店は、2011年9月に、飲食店がひしめく激戦地であるJR新橋駅近くに開業した「俺のイタリアン」だ(当時の運営会社は俺のの前身のバリュークリエイト社)。フォアグラやトリュフ、キャビアなどの高級食材を使いながらも1皿1300円以下。フォアグラを使ったメニューの原価率は72%にもなり利幅は薄い。

 料理については利益度外視で集客して、利益率の高い飲料で利益を確保するという店もあるが、俺のの場合はワインも仕入れ値に999円を上乗せした価格に抑えた。

 しかし私は、「それでいい」と料理人に言い続けた。それまで「原価率はここまでで抑えろ」とか、「売上目標はこれ」と命じられてきた料理人にすれば、夢のような話で、実際、彼らは思う存分に腕をふるい始めた。これが、俺のの高い顧客満足度を生み出す源泉となった。

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