こうして、各店の料理人に全てを預けて自由にやってもらう形にしているが、成績が伸びない店も当然、出てくる。しかし、それ以上にさまざまな料理人が結集しているので良いノウハウもたくさん共有できる。それが横につながっていけば、料理人たちの“俺の流”の調理と経営が創造されてくると考えている。
●日本の一等地・銀座へのこだわり
俺のは今、銀座とその周辺地に15店舗を構えている。今年中に銀座にさらに4店舗を出店する計画なので19店舗になる。チェーンストアが一定地域に絞って出店することを「ドミナント戦略」と呼ぶが、それにしても多い。他のフランチャイズと比較してみても同じエリアにセブン‐イレブンが9店、ローソンが10店、郵便局が11ある。これを見ても俺のの“銀座偏重”が際立っている。
銀座にこだわるのには3つの訳がある。
1つ目が、ちょっと他愛のない話なのだが、山梨県甲府で育った私にとっては、銀座は「華の東京」そのものであり、幼少期は銀座三越の最上階の食堂でカレーライスを食べるのが最大のご馳走だった。その銀座への思いがまず第一にある。
2つ目は、銀座は背後に築地市場を持ち、国際的な一流ホテルが近くにある。つまり銀座には日本の最高の料理人が集まり、その料理を食べる人がいる場所だということだ。そこで一流と言われるようになれば次はニューヨーク、パリ、ミラノが視野に入ってくる。料理人の幸せづくりのために、次へのステップを狙える場所という意味でも銀座以上のところはないだろう。
3つ目が、今以上に銀座を一流の料理人が集う場にしたかったことだ。日本は水が美味しく、四季折々の山海の珍味が食材としてあり、その味と日本人の器用さが相乗効果を発揮して世界に負けない料理が誕生している。だからこそ2020年の東京五輪時代に合わせて、世界の料理人たちが集い、技術を交換する場所にしたいと思ったのだ。
東京の知事さんは「東京をアジアのファイナンシャルシティーに」などと訴えるけれど、金融都市よりも食の中心にしたほうがアピールポイントが明確だし、実利も大きいのではないかと思う。
なぜ職人たちの交流にこだわるかと言えば、今、飲食業界の本当の“脅威”は、自動化やAI・ロボット化であるからだ。詳細なレシピによる味付けの実現だけでなく、食材を加工する包丁の研ぎ方さえも職人技が機械に転移されている。このまま放置すると10年後には、料理学校は調理機械の操作を教える学校になってしまう。
実際、著名な高級旅館チェーンでもすでに自動機械やセントラルキッチンの導入が始まっている。ちなみに、セントラルキッチンで最先端を走っているのがサイゼリヤだ。サイゼリヤは、小憎らしいぐらいに美味しい料理を自動で作っている。