いろいろあったこの一年も、十二月末日を迎えました。歳時記は、いろどり豊かに年の暮れを表す言の葉に満ちています。江戸の昔も今も、年の暮れを迎える心や暮らしの様子は変わらぬもの。そんないくつかの季語や俳句をご紹介して、一年の締めくくりといたしましょう。

とんとんと年行くなないろとんがらし

年末を表す季語は、年の暮、年の内、年惜しむ、など多様にあります。年の暮に、残る日数が少なくなる意味の「数え日」などは、初耳のかたもあるでしょう。そして「行く年」になりますと、暮れていく年の同じ意味ながら、一年の歳月を惜しみ、振り返るような気持ちが込められています。年逝く、年行く、年送る、流るる年、去ぬる年なども関連季語です。

・ゆく年の瀬田を廻るや金飛脚 <蕪村>
・行年や芥流る々さくら川  <蕪村>
・行く年や庇の上におく薪  <一茶>
・ゆく年を橋すたすたと渡りけり <鈴木真砂女>
・船のやうに年逝く人をこぼしつつ <矢島渚男>
・とんとんと年行くなないろとんがらし <草間時彦>

蕪村の句の「芥」は、ゴミや塵のことですね。年の瀬の最中に、ふと味わう諸行無常。人間味溢れる句を並べると、昔も今も人は皆同じ、と共感が湧いてきます。最後の「とんとんと」の句は、年越し蕎麦に七味唐辛子をかける様子でしょうか。大晦日の慌ただしさも形容しつつ、新年を迎えるうきうき感が込められた楽しい句です。

屑買にこの髭売らん大晦日

大晦日は、言わずと知れた十二月末日。大つごもり、大年(おおとし)も同じ意味の季語です。つごもりとは、陰暦で月の末日のことで、月隠(つきごもり)を略した語です。何かとせわしなく、元旦の準備に追われる日となります。

・屑買にこの髭売らん大晦日  <夏目漱石>
・漱石が来て虚子が来て大三十日 <正岡子規>
・大晦日は昔も今もさむき夜ぞ <大野林火>
・大年の廃品出るわ出るわ出るわ <石塚友二>
・大年の膝を動かぬ5匹  <吉川綾女>
・大年の湖にあまりし富士の影 <依田由基人>

漱石と子規のユーモラスな大晦日、断捨離気分な大つごもり、人間の忙しさなど何処吹く風の猫たち、そしてそんな人間群像を俯瞰して佇む大自然。ズームインもアウトも思いのまま、俳句は観察眼が養われますね。

積雪に月さしわたる年の夜

そしていよいよ大晦日の夜には、一年の境目を迎えます。季語では除夜、年の夜、年の晩、年一夜、除夕(じょせき)などといいます。夜半十二時に、人の百八の煩悩を除去するという百八つの鐘が寺院で撞かれ、人々は除夜詣でを行い、新しい年を迎えます。その年の息災を感謝し、来る年の家内安全を願う夜でもあります。

・積雪に月さしわたる年の夜 <飯田蛇笏>
・除夜の畳拭くやいのちのしみばかり <渡邊水巴>
・神戸美し除夜の汽笛の鳴り交ふとき <後藤比奈夫>
・宮島の除夜の燈明り波の上 <竹下陶子>
・澎湃(ほうはい)と除夜の枕にひびくもの <京極杜藻>
・夕焼消え除夜大空の汚れなし <池内友次郎>

人間万事塞翁が馬、泣いても笑っても明日から新年。
みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。

<句の引用と参考文献>
『新日本大歳時記 カラー版 冬』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 冬』(講談社)
『第三版 俳句歳時記〈冬の部〉』(角川書店)