説明は続く。〈ジェーン・グレイが敷いているのは、腹這いになって首を差し出すためのクッション。彼女の身分を考慮して豪華です。木製の首置き台は斧が振り下ろされた時の衝撃で動かないよう、鉄の輪で固定されています。下に敷かれた藁は、飛び散る血を吸わせるためのものです〉。いわれてはじめて知る生々しい細部!
貧しい女性の死を題材にした作品もある。ワッツの「発見された溺死者」(1848年頃)はテムズ川に身投げした娼婦とおぼしき女性を描き、〈両手を広げ、まるで十字架にかけられているようにみえます〉。タサエールの「不幸な家族(自殺)」(1852年)は〈貧しい母娘が床に置かれた火鉢で一酸化炭素中毒死をしようとしているシーンです〉。
若く美しい娼婦の死が描かれたのは、男性の勝手なロマンチシズムにほかならない。が、それがロマンになったのは〈ロンドンやパリといった大都会には若くも美しくもない娼婦が山ほどいたからだと思います〉。いちばん怖いのは女性の生き方を制限する当時の社会情勢だったのかも。
現物を見たい方は上野の森美術館へどうぞ。「怖い絵」展は12月17日まで開かれています。
※週刊朝日 2017年12月8日号