店先のガラス窓には「四畳半タイムマシンブルース」のキャラクターが描かれている。手作りのタイムマシンも(撮影/写真映像部・上田泰世)
店先のガラス窓には「四畳半タイムマシンブルース」のキャラクターが描かれている。手作りのタイムマシンも(撮影/写真映像部・上田泰世)

 本も映画も心ゆくまで楽しめる映画館がある。普通の映画館や書店とは一味違う独自の魅力に迫る。AERA 2023年5月1-8日合併号の記事を紹介する。

【写真】店内も手作りの装飾が見どころ。書店とカフェが入る/出町座

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 京都大学や同志社大学のおひざ元である京都・出町柳の出町桝形商店街。その一角に映画館「出町座(でまちざ)」はある。京都府内の映画会社が、元はスーパーだったビルを改装して、17年に開いた。地下と2階に50席弱のスクリーンが二つ、1階に書店とカウンターだけのカフェが入る。

 普通の映画館や書店とは、外観から少々違う。1階の大きなガラス窓は、スタッフが描いた絵と文章でいっぱいだ。

「新入生諸君入学おめでとう」

「不毛と愚行にまみれた学生生活へようこそ」

 まるで大学の一角だが、これは上映中のアニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」を想起させる言葉だ。京大出身の森見登美彦さんの小説の映画化で、まさにここ出町柳が登場する。

 ガラス窓に描かれているキャラクターは、登場人物。店先に展示されているのは、映画に登場するタイムマシン。商店街を訪れた人たちが足を止めて、スマホで撮影している。

店内も手作りの装飾が見どころ。書店とカフェが入る(撮影/写真映像部・上田泰世)
店内も手作りの装飾が見どころ。書店とカフェが入る(撮影/写真映像部・上田泰世)

「9時50分上映の回が始まりまーす」

 スタッフが店の外まで声を掛けにいく。店内にはすでに中高年を中心とした男女が集まっている。本棚の本を手に取る人、カフェのカウンターでお茶をしていた人たちが、劇場に入っていった。

 夕方以降やアニメ上映の回は大学生が多いが、幅広い層の人が訪れるそう。どの世代も1日1本は見たい映画があるように意識している。邦画、洋画、ドキュメンタリー、アニメとジャンルを問わない。

 法被にハンチング帽の劇場マネージャー喜多野純さんは言う。

「映画を見にくる人もいますし、別に目的はないけど『ここにきたら何か面白いものに出合えるかもしれない』とふらっときてくれる人もいますよ」

 店に入ってすぐの棚に並ぶのは、上映作品の原作、そして作品とテーマが近い関連書籍だ。

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