「My camera is a cell phone. Journalist's one is expensive,right?」(カメラだってスマホだし。ジャーナリストは高級なカメラを使うだろ?)
「Really? No problem.」(そうか。それならいい)
必要以上に大きな声で、そして、大きな身ぶり手ぶりでおどけて見せながら、自分の発言が冗談であることを納得してもらった。失敗を言葉だけで埋めようとすると、余計に墓穴を掘りかねない。私の場合、その場の雰囲気を変えるために必死にあがいた結果、なんとか取り繕うことができたわけだが、お互いに母国語ではない同士の意思の疎通の場合には、不用意な発言が取り返しのつかない結果を生み出すことがある。このケースでは、それを骨の髄まで思い知らされる結果となった。
ちなみにこのあとは早々に退出することにした。というのも、いくらごまかしたとはいえ、疑念の種のようなものは相手に生まれている。しくじってしまったら、その芽が出る前に立ち去るようにしている。
また、去り際にも一工夫がある。職人へ見学料としての謝礼を支払った。金額は大したことはなかったのだが、多少色をつけておいた。結局、金で解決かと思われるだろうが、私の気持ち的には「一刻も早く帰りたい」しかなかった。それほどまでギリギリの精神状態に追い詰められていた。発言には注意しようと心から思ったのであった。
(文/ジャーナリスト・丸山ゴンザレス、イラスト/majocco)
丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立。現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員