「Can I take a picture? I want to collect gun photos.」(コレクションにしたいから写真を撮影していいですか?)
「No problem.」(問題ないよ)
銃が好きで、日本からわざわざやってきた。その事前情報を相手に入れておけば、写真撮影ぐらいは断りにくいはず。少々姑息かもしれないが、相手の人情を利用した作戦が効果を発揮してくれた。実際、気さくに同意してくれた銃職人はどこにでもいるフィリピンの中年男性そのもの。人懐っこい笑顔すら浮かんでおり、私の本音に気づいたそぶりもなかった。
すべてが順調にいっていた取材だったが、私の不用意な発言で現場の空気は一変する。
「If I am a journalist and have come to take document pictures, what do you think?」(もし俺がジャーナリストで、取材に来てたらどうする?)
現場の柔らかい空気は、これをジョークとして捉えてくれると思っていた。だが、予想はまったく逆の形に裏切られる。
「……」
しばしの沈黙。この時、工房の周囲の木々の音、鳥のさえずりなど自然の音がやけに耳に届いたのを覚えている。そして、職人はゆっくりだが、はっきりと言った。
「I'll kill you.」(殺すよ)
前回紹介したように、拳銃工房のクライアントには、反政府組織も含まれている。そんな連中を相手にしている裏社会の住人に対して、いかに軽はずみな冗談を言ってしまったのか、背中を伝って落ちていく汗の量が物語ってくれていた。
「It's a joke. I am just kidding.」(冗談だよ、冗談!)
「……」
「If I'm journalist,I have many staff.」(俺がジャーナリストなら、もっとスタッフがいるはずだよ)
「……」