世界中を旅しつつ、スラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレス。インタビューの基本は英語である。それもフィリピンで習得したアジアン・イングリッシュ。ブロークンであるがゆえに、恐ろしくも奇妙で日常生活ではまず使うこともないようなやりとりも生まれてしまう。そんな危険地帯で現地の人々と交わした“ありえない英会話”を紹介する本連載、今回のキーワードは、前回に引き続きフィリピンの拳銃密造工房で飛び出した。それも「I'll kill you」である。究極のピンチをいかにして乗り切ったのだろうか。
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2014年、フィリピンのセブ島で銃の“密造村”に潜入取材した。観光でにぎわう島の南部からバスで1時間の距離にあるDという町は、一見すると、商店街と住宅地が並ぶだけのフィリピンではありふれた田舎町。とても銃の密造工房があるのが信じられないほどにのどかな場所であった。だが、この場所に密造工房があるという情報は確かなものだった。
実際、様々な手段を講じて現場にたどり着けたまではよかったのだが、正直にジャーナリストで取材に来たなんて話したら、取材を断られるだけでは済まないだろう。そこで、銃マニアの日本人旅行者と名乗って訪れていた。
「I am gun maniac. This is a treasure for me. I have never seen in Japan. I am so exciting!!」(銃マニアの僕にとっては宝の山です。日本では見られないから興奮しています)
「There are real guns in here.」(ここにあるのは本物だからな)
「I am glad to come here.」(ここに来てよかったです)
取材は状況に応じて一気にギアを上げる必要がある。しかし私は、落ち着いて取材をすることで常に冷静であろうとしている。その理由は「本当にやりたいことを頼む際には、導入に矛盾点を出さない」ためだ。前段のやりとりは次にしたい提案へのつなぎだった。そのあたりの布石としての説明を含めていた。