「ワンオペ(ワンオペレーション=一人作業)」が社会問題になったのは2014年。某牛丼チェーンで従業員が長時間一人で働く実態が明るみに出たのがキッカケだった。しかし、ワンオペはブラック企業だけの問題か。母親が家事も育児も一人でこなす家庭だってワンオペじゃん! こうして女性たちの間で広まった言葉が「ワンオペ育児」。藤田結子『ワンオペ育児』は、母親たちが悲鳴をあげる今日の子育て事情を、生の声や統計を通して描いた一冊だ。

 夫の単身赴任、離婚などによるシングルマザー化。母親がワンオペ育児に至る契機はいろいろだけど、主因はやはり仕事中心の夫である。妻たちの声は切実だ。

 夫はエリート会社員。夫婦の仲はよかったはずなのに、産後は一変。育児でヘトヘトの妻の前で「仕事で疲れた」。赤ちゃんの声が「うるさくて家で仕事ができない」。あげく「マネジメント能力がないからダメなんだよ」といわれた妻は〈産後に夫を殺したくなるっていうのがよくわかりました〉。

 育児に積極的なイクメンもあてにはならない。彼らは子どもと「遊び」はしても、子どもの「世話」はしたがらない。イクメンと評判の30代会社員いわく。〈僕はおむつを替えたりしないんですよ。そういうのは妻の担当〉

 男性の長時間労働もさることながら、根底にあるのはやはり根強い性別役割分業意識である。ノーベル賞受賞者が「研究に没頭できたのは妻のおかげ」と口を揃えるのを美談と持ち上げる風潮にも著者は苦言を呈する。〈これでは、女性研究者が同じほどの業績をあげることは難しいでしょう〉

「育児をしない男を、父とは呼ばない」という厚生省(当時)のポスターが話題になったのは1999年。当時の男性の育休取得率は0.4%だった。現在は3%台まで増加したものの、育休期間は2週間未満が75%。「なんちゃって育休」といわれるゆえんだ。

 共働き家庭が標準化した現在、まずは実態をしかと知るべきだろう。熟年離婚だってこういうのの延長線上にあるんだからね。

週刊朝日  2017年9月15日号