■仕事も育児もやるのは「欲深い人」に見られる

直子:スウェーデンの話、とても興味深いのですが、韓国では緊急時まず母親に連絡がいくというのは驚きです。日本では保育園や学校で第1連絡先、第2連絡先を提出し、私の場合は第1が私、第2が夫、第3が夫の両親となっていて、順番にかかってくる。スウェーデンのように交互に連絡がいくのはいいですね。

──緊急の連絡を受けることはよくありますか?

直子:周りに頭を下げて帰った経験は少なくありません。私は一般企業を2社経験していて、両方フルタイムで働いていました。1社目は大手メーカーで時短勤務制度があったので早退しやすい代わりに、任される仕事は雑用が多くて、子どもが熱を出したときに、無理をして出社する仕事なのか、と働く意義を感じられなくなってしまって。2社目は教材会社でしたが、大きな仕事を任される一方、私がいないと誰かに負担がいってしまう。家族全員が胃腸炎になって会社を休んだら、同僚たちが残業することになり、申し訳ないでは済まない状況でした。

李:直子さんのように子どもが3人いたら、私も今の仕事を続けるのは難しかったと思います。韓国では仕事もうまくやって、育児もうまくやりたいと言うと、欲深い人のように見られるかもしれない。人目が気になって、がつがつせずに控えめにしています。制度の改善は必要だと思います。

ヨウコ:直子さんの気持ちはよく分かります。うちも家族3人がコロナに感染して、大変でした。私は今の勤め先が4社目ですが、理解のある職場に勤めてきたと思っています。今の会社はフレックス制度があって、1日何時間ではなくトータルで1カ月何時間というふうに調整しながら働ける制度があります。

 子育てをしているといろんな時期があり、仕事をがんばれる時期と、割と子どもにつきっきりじゃなきゃいけない時期と、濃淡があります。子育てを空白の時間と捉えず、もっとキャリアを長い目で見てほしい。子育ての中から生まれるインスピレーションもあるはずです。キャリアが断絶してしまうとグーンと年収が下がるのが日本の課題で、韓国はどうなのか教えてほしいです。

金:韓国では「経歴断絶女性」という、出産育児でキャリアが途絶えた女性を指す単語がありますが、最近は「経歴保有女性」という単語を使い、経歴を保有している人なんだというふうに認識を変えようとしています。休職すると能力が落ちるという固定観念があって、自ら復帰をあきらめてしまう面もあると思います。私の会社では男性が100%育休を取っています。制度もそうですが、社会の雰囲気作りもすごく大事だと思います。

趙:韓国には世宗(セジョン)市という公務員が多く暮らす都市があります。国全体の出生率は0.78ですが、ソウルは0.59、世宗市は1.12です。なぜ世宗市が高いのかと言うと、育休が取りやすく、経歴が断絶しないからです。新都市なので保育施設も充実している。韓国の中でも地域によって違い、世宗市の例も知ってほしいと思います。

齊藤:私は、義母ががんで昨夏から在宅勤務で介護をしていました。結婚してもしなくても、介護に携わる時期は来ると思います。私は皆さんより一歩先に経験したのかなと思います。子どもがいてもいなくても仕事が一番大事な時期もあれば、家族やほかのことを大切にしたい時期もある。みんながどういう状況でも支え合える社会になればと思います。

(構成/ライター・成川彩=ソウル)

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