■「最高の演技が出来た」

 演技冒頭、怪人になりきった高橋は仮面を剥がされ苦悩にもだえ、クリスティーヌは葛藤しながら地下の洞窟へと入っていく。情感あふれるコレオステップで第2章の幕が開けた。

「オペラ座をシーズン始めにマリーナ(・ズエワ)コーチから提案された時には、(10年バンクーバー五輪で銀メダルを獲得した)メリル(・デービス)&チャーリー(・ホワイト)のオペラ座が大好きだったので『私たちがやっていいんですか?』と」

 村元がそう振り返ると、高橋は答える。

「彼らのオペラ座が印象深いけれど、それ以上に僕たちはこの曲が好きだから、自分たちらしいプログラムをと求めてきました」

 さまざまな経験をしてきた2人の世界観を重ね合わせた。村元はパートナー不在で滑れない時期を乗り越え、高橋は4年のブランクとシングルからの転向である。30歳と37歳の今の2人にしか出せない、複雑な情感を演技にこめた。

 パーフェクトに滑ると、自己ベストの合計195.01点で今季を締めくくった。

「僕にとって思い出になる場所で最高の演技が出来たことがうれしくて。『ここに来るためにこの曲だった』って、そう感じちゃおうかな(笑)」(高橋)

「オペラ座は怪人の力があってクリスティーヌが輝けた物語。自分も大ちゃんと組んだことでアイスダンスを再開してスケーターとして戻ってこられた。色々な思いが重なりました」(村元)

 カップル競技の境地は見えたか、という質問に高橋は照れながら返した。

「まだ見えてないなあ。でも、やればやるほどお互いのことも分かり合える。どういう形であれ演技は継続していきたいです。まだやっと分かり始めたスタート地点なのかな」

 来季の現役続行については「真面目に考えます」(高橋)。2人が目指す境地に向かって、確実に一歩をしるした。(ライター・野口美恵)

AERA 2023年5月1-8日合併号