体調が悪いとき、痛みは弱い部分に出る。社会も同じだ。世の中の歪みは、もっとも弱い者にしわ寄せされる。

 上間陽子『裸足で逃げる』は、沖縄のキャバクラで働く少女たちにインタビューしたノンフィクション。著者は琉球大学教育学部の教授で、社会学的な聞き取り調査の手法が根底にある。

 6人の少女たちが登場する。共通しているのは、15歳ぐらいの若いころから、年齢を偽ってキャバクラ等で働いてきたこと。家庭環境が複雑で、居場所がないと感じていたこと。助けてくれる大人があまりいなかったこと。そして、恋人や配偶者から繰りかえし暴力を受けてきたこと。

 若くして子どもを産んだ少女が多い。シングルマザーがキャバクラで働くのは、子育てと生活費を得ることを両立させるためだ。学歴や経験・技能もなく、助けてくれる家族や地域社会もないなかで、選択肢は少ない。彼女たちは生きるか死ぬかのギリギリのところを歩いている。ぼくはこの本を読みながら涙がとまらなかった。

 本土で暮らす中流以上の「ふつう」の大人から見ると、彼女たちは自堕落な不良少女かもしれない。だがよく考えると、少女たちが受けてきた暴力は構造化されたものだと気づく。

 男たちが少女に暴力をふるうのは、男たちもまた追いつめられているからだ。沖縄の男たちを追いつめるのは、本土の「ふつう」のわたしたちだ。わたしたちが基地を押しつけ、まっとうな暮らしの邪魔をしてきた。

 少女たちへの暴力によって成り立つ世界は、一日も早く変えなければならない。

週刊朝日 2017年4月7日号