どうしてトランプなんかが大統領になったのかわからない。アメリカの民主主義はもう終わりなんじゃないのか。そう思っている人におすすめなのが金成隆一『ルポ トランプ王国』だ。著者は朝日新聞ニューヨーク特派員。取材期間は2015年11月から約1年間。働く市民を中心に14州150人の声をコツコツ集めた労作だ。
印象的なのはトランプ支持者の多くが、もとは民主党支持者だったと述べていることだ。たとえば製鉄業や製造業が廃れ、失業率が高く、若者の人口流出が激しい五大湖周辺「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の人々は……。
〈民主党は勤労者を世話する政党だった。ところが10~15年前ぐらいからか、民主党は勤労者から集めたカネを、本当は働けるのに働こうとしない連中に配る政党に変わっていった〉。〈この谷(街)からすっかり仕事がなくなってしまった〉。知事は〈均衡財政を実現するためといって、公共サービスを切り始めた。ついには学校教育にも影響が出ている〉。
どちらもトランプ支持に転じた元民主党支持者の不満である。トランプ支持者は貧しい白人労働者というイメージだけど、むしろ目立つのは〈かつての豊かな暮らしが終わる、低所得層に転落しそうだ、という不安を抱くミドルクラスが多い〉と本書はいう。
自分たち中間層は不法移民や不労者の社会保障費を負担してきた。余裕があった頃はそれも許容できたが、自分たちの暮らしが危ういいまとなっては〈もう他人の勘定までは払えない〉。もう十分だ。フェアにやってくれ!
トランプを指して〈彼はオバマと正反対で下品なヤツだ〉とある民主党支持の若者はいう。だけど〈あいつは権威ある相手にもひるまず、やり返すカウボーイ。ホンネむき出し。エリートが支配するワシントンを壊すには、そのぐらいの大バカ野郎が必要だ。1期4年だけ、任せてみたい〉。
ニューヨークなどの大都市発の情報では見えてこない現実。中間層の転落。ラストベルトと日本の悩みがそっくりなのが怖い。
※週刊朝日 2016年3月31日号