漢字の体系的な成り立ちを解き明かし、古代人の生活をよみがえらせた白川静。その学問の特徴を、教えを受けた通信社記者がまとめた。

 白川の文字学に深く共感する石牟礼道子によると、漢字は使う者に呼びかける文字で、3千年以上もの間、人間と神のあいだの祈りを通した応答を映し出してきた。それを解明したのが白川という。「右」という漢字の「口」の部分を、白川は顔の「くち」ではなく、神への祝詞を入れる器の形と解く。「右」はみぎ手でこの器を持って神様に祈る字形なのだ。

「若」の甲骨文字は、神と交感してエクスタシー状態となりつつお告げを求める巫女の姿。「呪術的」と批判されることもある白川の解釈は独創的だ。すさまじいまでの信念の人ながらも、おごらず、屈託のない人柄がしのばれる。

週刊朝日 2017年3月17号

[AERA最新号はこちら]