●有資格者の「熱意」をよそに 闇ガイドはボロ儲け
東京の街中でも“闇ガイド”をよく目にすることがある。当然、彼らは正規の旅行会社が準備した「旗」を持たない。その代わりに、季節外れの鯉のぼりやマスコット人形を旗代わりにして歩く。その姿はブレザーの着用もなく、あるべきはずの「通訳案内士資格者証」も胸に掲げられていない。
2016年時点で、日本には通訳案内士として登録する有資格者は2万人超いると言われている。そのうち9割超を占めるのが英語の通訳案内士であり、中国語の通訳案内士の数は2016年で2380人に過ぎない。
一方、2016年には中国から日本に637万人の訪日客が訪れた。そのうち個人旅行者が65%を占めるが、団体旅行者も依然35%を占める。同年には222万人が団体旅行で訪れた計算だ。
仮に、一団体を40人で計算しても5万組が団体旅行で訪日したことになる。2380人の有資格者だけではどう考えても足りない。つまり、不足する通訳案内士を“闇ガイドの暗躍”で埋めているという構図だ。
さて、日本の通訳案内士という業界で保田さんのようなベテランの男性ガイドは少数派だ。そもそも仕事の受注が不定期というその性格から、これを本業にすること自体難しい。通訳案内士に憧れたが、「夢破れ転職」という話もよく耳にする。
保田さんはこう話す。
「もともと貿易業と掛け持ちで通訳案内士をしていたのですが、次第に発注が増えてガイドが本業になってしまいました。今年で12年目になります。一般的に通訳案内士の仕事は不安定で、予定していたツアーも直前でキャンセルになることもよくあります。それでも月の仕事が15日入ればなんとか食べていけます。中国語のコミュニケーションは楽しいですよ。やっぱり、私はこの仕事が好きなんでしょうね」
“闇ガイド”が桁外れのボロ儲けに浴する一方で、正規の有資格者の生活はひたすら熱意で食いつなぐのが実情だ。国は「インバウンドで日本経済は潤う」と期待を煽るが、何かがおかしくないだろうか。
(ジャーナリスト 姫田小夏)