病や旅などで、身近な存在を失い、ユニークな方法で見送った経験を持つ5組の話。パリ、ヒマラヤなど世界各地を舞台に、取材対象者と故人との出会い、離別、その後に至るまでがこまやかに綴られる。

 締めくくりに登場するのは、本書の装丁を手掛けた装丁家・矢萩多聞氏。中学時代、インドで生活していた矢萩氏が、現地でインド哲学や人生を教わったという男性について語る。家族ぐるみで親交を温めていたが、数年後、男性はがんで死去。骨をインドの川に流した後も、彼は一体どこへ行ったのか考え続けたと語る矢萩氏。話はいつしか、〈私〉と他者の境界をめぐる問いへと昇華してゆく。壮大なテーマだが、重さを感じさせず読みやすい。誰かの人生が、また誰かの人生に引き継がれていく──その過程をゆっくりと味わえる。 

週刊朝日 2017年3月3日号

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