寝起きの半覚醒時、声が聞こえるという(写真はイメージ/gettyimages)
寝起きの半覚醒時、声が聞こえるという(写真はイメージ/gettyimages)
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 女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。50代の編集者女性は毎朝、ある「声」を聴いているという。

【写真】不思議な声について「ワキガみたい」と語る50代編集者女性

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体の中から声が聞こえる

「朝目が覚めて、意識がハッキリしてくるまでの半覚醒状態のときに、いつも声がするんですよね」

 綾子さん(仮名/50代)は、ホットコーヒーを飲みながら不思議なことを言い出した。

 体を起こしてしまえば、その「声」は消える。疲れていて、ダラダラ布団の中にもぐっていると、いつまでも「声」は喋り続けるという。

「私の声なんですけどね。たとえば、本を読むときって自分の声で読むじゃないですか、ああいう感じで、体の中から聞こえてくるんです」

 彼女は、新卒で出版業界に入り、これまで質の高い本を何冊も手がけてきた書籍編集者だ。気配りのある話し方で、いかにも常識人といった雰囲気だが、そんな綾子さんが真顔で言うのである。

「あんたバカだよね」えぐるような言葉

「なんかね、逃げると追いかけられるから、その声と向き合おうと思って、枕もとにペンとノートを置いてメモすることにしたんですよ。で、読み返してみると、だいたい嫌なこと言われていますね。『所詮、お前はそんなもんだ』とか、『口で言ってるだけで終わるんでしょう?』『あんたバカだよね』とか。自分でもなんとなくわかっていることを、傷口をえぐるような言葉で言う。もうちょっと優しくなってもいいのに」

 その「声」は、社会人になってから聞こえるようになったという。つまり約30年間、綾子さんはその声を聞きながら目を覚ましているのだ。

「私、みんなにあることだと思っていたんですけど、ないんですね?」

 素朴な疑問を投げかけてくるので、私が「一度もないですね~」と答えると、「そうか、これ普通じゃないのか」と、綾子さんは自分を納得させるように頷くのだった。

ベストセラーに結びつくヒントも

「めっちゃ嫌な奴だけど、ヒントをくれることもあるんですよ。『こんなテーマがいいんじゃない?』って言われて、ヒット作に結び付く」

 それは、あるベストセラー作品の誕生秘話だった。そのときは、著者は決まっていたが、書籍のテーマが決まらず、綾子さんは頭を悩ませていたらしい。すると、朝の声がアイデアを出してきて、綾子さんは『それだ!』と直感した。そのテーマを著者に伝えると、最初は『それのなにが面白いの?』という反応だったが、綾子さんには核心めいたものがあり、熱心に口説いて執筆してもらえることに。結果、大ヒットし、著者の出世作になったという。神がかった話だ。

「だから、私を叱責する秘書でもあるんです。いつも嫌な奴なのに、たまに良いことを言う」

 まるで、もう1人の自分だ。そんな存在がいたら、さぞ心強いだろう。

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