需給バランスを調整する政策を講じるべき

 やはり5kg5000円という米価高騰は異常です。政府が何も対処しなければ、間違いなく国民からの信頼は失墜していたでしょう。他方、米農家に与えた不安についても決して無理解でなく、今回のトランプ関税における日米合意において、政府が米のさらなる輸入増加を阻止した点は評価されるべきだと思います。

 しかし私がもっとも危惧しているのは、備蓄米の「再備蓄」に係る問題です。今回の放出で、約100万トンの備蓄米のうちの80万トン以上の米が喪失するというのは、供給途絶リスクのセーフティネットとしてある備蓄米制度がほとんど機能しないだろうことを意味しています。備蓄米放出における「買い戻し条件」をなくした以上、再備蓄の見通しも不透明なままです。

 米の市場価格が高止まりしている状態で再備蓄を行う場合はコストがかさみ、備蓄米制度を長期的に維持できなくなるかもしれません。政策として本来安く排出される備蓄米を活用し、比較的低コストで米の供給を増やし消費者に届けられたのは評価すべきです。しかし備蓄米の再備蓄のためのコストがかさめば当然国民の批判の的になりますし、かといって市場価格が下落するのを待っているうちに大規模災害が起きて米の供給が途絶したら大変なことになります。

 今年、政府は米の作付面積の拡大から56万トンの増産を見込んでいますが、高温や旱魃(かんばつ)の影響が懸念されています。さらに先日、2024年産の米の需要量は、当初見通しの674万トンより多い711万トンだったという試算を発表しました。国や農水省は、今一度、米の価格高騰の原因をきちんと分析し、長期的な視点で需給バランスを調整する政策を講じるべきではないでしょうか。

(SITO.:農家、農業ライター)

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