「買い戻し条件付き」の競争入札

 ところが、長期化する米価高騰が社会問題となり、メディアに取り沙汰されるようになると、令和7年1月の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」において、主食米の円滑な流通に支障が生じる場合に備蓄米の放出ができるように内容が変更されました。これにより、2月に備蓄米放出が正式に決定し、通常は食用米として流通しない備蓄米が市場に放出されることになったわけです。

 実際にスーパーなどの店頭に備蓄米が並び始めたのは3月下旬以降でしたが、この時の備蓄米の放出は一定期間後に同じ量を政府が買い戻す「買い戻し条件付き」で競争入札が行われました。

 しかし、米の価格高騰は収まらず、今年5月に農水大臣が小泉進次郎氏に代わってすぐに「買い戻し条件を伴わない随意契約による直接取引」となりました。これにより、今日スーパーには小泉農水大臣が目標とした5kg2000円程度の備蓄米が並ぶようになったわけです。このように需給調整政策であった備蓄米制度が、今は価格調整政策に使われています。

備蓄米放出のメリットとデメリット

 備蓄米放出のメリットは、災害などにより米が不足したときに供給量を一時的に増やし、米を必要とする消費者に行きわたらせることで、社会的混乱を防げることです。実際、東日本大震災などの大規模災害時に活用されたように、地震・台風・豪雨などの災害で物流が止まったとき、備蓄米を速やかに放出して避難所や被災地に迅速に食料を供給することで、人々を安心させることができます。

 今回の備蓄米放出においては、副次的な「価格調整機能」が役立ちました。評価は分かれるところですが、米の供給量を増やすことで価格のこれ以上の暴騰を抑えたと見ることができます。また、政府が小売業者に備蓄米を5kg2000円程度で販売するよう強く要請した結果、物価高騰に苦しむ消費者の経済的負担を軽減できたといえるでしょう。

 しかし、備蓄米の放出にはデメリットもあります。放出による供給量の増加は、確実に米価を押し下げますが、その程度によっては米を作る農家の経営を圧迫します。だからこそ、政府は当初、買い戻し条件を付けることで放出した分の再回収を約束する「米の貸し出し」のようなやり方を考えました。政府が増やした供給分を回収することで、競争市場の健全性を担保しようとしたのです。これは当時の江藤農水大臣が備蓄米制度はあくまで価格調整政策ではなく、需給調整政策であることを重視していたがゆえの方法といえます。

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