遺産相続における「寄与分」「特別寄与料」は、介護で苦労をした人に報いる手段となるはずだが、実際に認められた例は少ないようだ。遺産相続などにも詳しい「稲葉セントラル法律事務所」(東京・大田区)の稲葉治久弁護士は、「残念ながら、介護をした相続人が十分に報われるような制度ではない」と指摘する。
たとえば、相続人の「寄与分」は、デイサービスなどの公的介護保険サービスを使っている場合は認められず、寝たきりの家族を在宅で24時間見ていたり、自分のお金を持ち出して介護をしたりしている場合に裁判所が認めるが、そのハードルは高いという。
また、「特別寄与料制度」も申し立てができる期間の制限があったり、主張を立証することが難しかったりといった課題があり、「相続人が寄与分を主張する場合と異なり、手続きが煩雑で、十分に活用されていない印象です。単体で特別寄与料を請求するケースはまだ少ないです」(稲葉さん)。
そんななか、裁判になったときに備えて、▽介護のためにいつ、どのぐらいの時間を、どんな内容で費やしたのかを手帳やスマホ、カレンダーなどに記録しておく▽日頃から介護をしていることを、きょうだいに伝えておく、の2つが重要だという。稲葉さんはこう解説する。
「争いになれば、介護に従事した分がいくらに相当するのかを、最終的には裁判所が判断をします。基本的には介護報酬を算定する計算式に基づいて金銭換算していきますので、『どれぐらいやったのか』という記録の証明がきわめて大事になってきます」
姉小路さんは、介護と裁判をめぐる体験を機に多くの介護体験者を取材し、『介護と相続、これでもめる!不公平・逃げ得を防ぐには』(光文社新書)を執筆した。
両親を介護した日々を振り返り、姉小路さんはこう話す。
「母はいつも『世話かけてごめんね』『ありがとう』と言っていました。まだ十分に親孝行できたとは思っていないけど、介護ができてよかったと思っています。何の後悔もありません。ただ、親のために介護をした人が報われない社会であってはならないと思います」
(AERA編集部・大崎百紀)
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