母は60代後半から認知症となり、父も数年前に脳梗塞のために手足にまひが残った。現在はそれぞれ別の施設に入ったが、通院の付き添いや衣服の洗濯などのために、女性はパートの仕事をしながら父母のところに通っている。
父が施設を退去せざるを得なくなり、次の施設を決めて妹に報告をすると、こう返ってきた。
「ありがとね、よろしく!」
妹とは仲が悪いわけではない。協力して介護にあたりたいが、日々の大変さが全く伝わっていないようだ。そして今後、遺産相続の話になったときに、妹はこんなことを言ってくるのではないかと今からうんざりしている。
「お姉ちゃん、よろしく! 半分ね」
必要な「割り切り」
家族の介護をめぐり、兄弟や姉妹間で起きたトラブルについての相談が増えているようだと、認知症の両親などを介護する家族や支援者らでつくる「認知症の人と家族の会」の東京都支部代表、佐々木元子さんは話す。昨年、支部に寄せられた相談件数338件のうち、家族間でのトラブルに関するものが71件を占めたという。
「きょうだい間のトラブルは昔からあったとは思いますが、『うちだけかもしれないと思っていた』と言う人は少なくありません」と佐々木さん。家庭のなかで隠されていたトラブルについて「言ってもいいんだ」という雰囲気になり、その実態がわかるようになったと見ている。
そんな悩みを抱えている人たちに、どんなアドバイスをしているのか。
「わかりあえないきょうだいに、『一緒にやろう』『わかってもらおう』と注力するかわりに、その時間と労力を要介護者に注いであげてください、と言っています。言っても無理なのだ、折り合えないのだ、と割り切った方がよほど楽です」
たとえば、介護に非協力的なきょうだいに、「今日はできなくなった」と代わりを頼んでみて、その反応を確認してみる。
「それでダメなら今後はあてにしない。あてにするから傷つくのです。やってくれたら、何かあった時に頼める、という意識になれます」