相続をめぐって裁判に

 そして、介護の最中よりも事態が深刻化するのは、親を看取った後の「遺産相続」の場面だ。

 遺産をめぐる争いは、亡くなった「被相続人」が残した財産を、どのように分配して相続するかについて遺族が話し合う際に起こる。司法統計によると、遺産分割をめぐって家庭裁判所に申し立てられた調停や審判の件数は、年々増える傾向にある。昨年は約1万6千件だったが、20年前から1.5倍以上に増加。また、争われた遺産の額が1千万円以下だったケースが35%を占めており、決して裕福な家庭で争いが起きているわけではないことがうかがえる。

 推理小説作家の姉小路祐さん(73)は、親の介護にかかわらなかったきょうだいと、約12年にわたって裁判を戦うことになった。

 脳梗塞になった父、咽頭がんになった母の介護のため、56歳で教員を退職せざるをえなかった。「しんどい」「元気になりたい」とこぼす母親を花見に連れ出し、積極的に声をかけて元気づけてきた。しかし、母はがんが見つかって4年半後、前年に亡くなった父の後を追うようにして息を引き取った。

 母親と折り合いが悪く、闘病中もめったに実家に姿を見せなかったきょうだいから連絡があったのは、その後だ。両親の遺産を「相続する」ということと、「今後一切、連絡は弁護士である代理人を通してほしい」という内容だった。

 きょうだいは、被相続人の子どもとしての「法定相続分」を受け取る権利を主張したが、姉小路さんは父親の老人ホームの入居費、母が必要とする日用品などを計数百万円で立て替えていた。その介護にかかった費用の扱いと遺産の分割をめぐり、きょうだいが争うことになったのだ。
 

「寄与」の主張に壁

 民法では、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献(介護、事業の手伝いなど)をした法定相続人は、他の相続人よりも多くの相続分を受け取ることができると定め、これを「寄与分」という(民法904条の2)。

 さらに2018年に改正された民法では「特別寄与料制度」が設けられ(民法1050条)、法定相続人ではない長男の妻などの親族が介護などで特別の寄与をした場合に金銭を請求できるようになった。

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