
介護が必要になった親の世話を、兄弟姉妹の間で押し付け合い、その死後も争いになる。そんな事例は、決して珍しいことではないようだ。そして、ひとりで担った介護の負担が報われるには、「備え」も必要だという。
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「お母さんが大変なのよ」
母の介護を一人で担ってきた大阪府の女性(44)の“訴え“に、二人の姉が応えてくれることはなかった。「私には家庭があるから」と言って。
女性は28歳のとき、脳の疾患で右半身にまひが残った母親の介護をするため、高校教諭の仕事を辞めた。キャリアをあきらめ、結婚のタイミングも逃した。
父親は母より前に他界。月12万円の遺族年金だけでは苦しく、学生時代から貯めていた女性の預金を切り崩しながらの生活だった。そして母の死後、実家で暮らそうと考えていた女性に、二人の姉はねぎらいの言葉もなく、こう言ったという。
「遺族年金であなたも生活をしていたのだから、自分が食べた分は返還しなさい」
「結婚もせず、子どものいないあなたには家を引き継げない。相続放棄しなさい」
私が結婚できなかったのは、母の介護を私に丸投げした、あなたたちのせいではないか――。こんな姉たちに、女性は何も言う気が起きなかった。介護の日々を振り返って、女性はこう話す。
「介護から逃げようとするきょうだいを説得するのは、時間とエネルギーのムダです。これが自分の運命だと覚悟を決めたら、かえって楽になります。私は無宗教者ですが因果応報という言葉は信じています。親への恩を忘れた者には、自分が要介護者になったときに子から捨てられるといった天罰があると思います」
連絡しても「よろしく!」
埼玉県のパートの女性(57)も、近くの施設で暮らす父親と母親の対応を一人で担っている。都内に住む3歳年下のフリーランスの妹は、どんな連絡をしても「忙しいから無理。よろしく!」とLINEで返事するだけで、協力をしてくれる気配はない。