彼女の表情のほとんどは、美しい黒髪に隠れています。ですが、大きな単眼を持つ恐ろしい顔、それが彼女の正体でした。
平安時代以降、「琵琶法師」と呼ばれる盲目の琵琶の僧、演奏者がおりました。琵琶演奏者である鳴女も、鬼としての外見特徴に「目」が何よりも強く関わっています。最初に鳴女と対峙したのは、恋柱・甘露寺蜜璃と蛇柱・伊黒小芭内でした。生まれつき視力が弱く、愛蛇・鏑丸の助けを受けている伊黒が、「目の異能」を持つ彼女の対戦相手になったことは、決して偶然ではないでしょう。
そして、鳴女の異能対策のために、彼女との戦いに加わったのは、人を喰わない鬼・愈史郎でした。彼は「視界」を操る能力を持っており、彼らの間では目の異能バトルが繰り広げられます。
■「愛」というもう1つのキーワード
さらに、ひとつ言い添えなくてはならないことがあります。伊黒は無限城で行動をともにすることになった甘露寺蜜璃に深い愛情を抱いています。そして、愈史郎もまた鬼の珠世に恋をしていました。
乱暴な夫に怒り、愛を捨てた鳴女が、『鬼滅の刃』屈指の純愛の物語を紡ぐこの2人の男たちと決戦をむかえるところに、やはり運命性を感じざるを得ません。伊黒と愈史郎が、自分の〝特別な視界〞に映したかったものは…。このバトルでは、「目」のモティーフを中心に、「真実の愛」のエピソードが語られます。
厳しい戦闘の最中にも、愛する人の願いを叶えるため、その目に思い浮かべた〝彼女〞の笑顔を守るため、伊黒と愈史郎は大切な人とともに最後まで戦います。「愛」を捨てた鳴女は、その目でいったい何を見つめるのでしょうか。
《鬼殺隊と上限の鬼は、無限城の戦いで何を考えていたのか? 新刊『鬼滅月想譚 ――「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』では、猗窩座や童磨をはじめとした「鬼」と、煉獄杏寿郎や冨岡義勇ら「柱」との熾烈な対決についても詳述している》
