2025年11月、東京・明治座で「藤娘」に出演。「藤の精」を演じた中村米吉さん (photo  ⓒ松竹)
2025年11月、東京・明治座で「藤娘」に出演。「藤の精」を演じた中村米吉さん (photo  ⓒ松竹)
この記事の写真をすべて見る

 大ヒット中の映画「国宝」。原作の吉田修一さんによる同名小説(朝日新聞出版)から描かれているのは歌舞伎の世界の「血筋」と「本筋」の生きざまだ。7歳から舞台に立つ若手歌舞伎俳優の中村米吉さん(32)が自身の歩んできた道に思いをはせつつ、映画とこれからの歌舞伎界について語った。(【前編】「生き方が羨ましくもある」 若手歌舞伎俳優・中村米吉が映画「国宝」の衝撃を語るはこちら)

【写真】美しい!「祇園祭礼信仰記 金閣寺」で「雪姫」を演じた中村米吉さんはこちら

*   *   *

「お前の血が欲しい」

 映画「国宝」には、任侠の一門に生まれ、上方歌舞伎の名門・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られた立花喜久雄(吉沢亮)と、半二郎の実の息子である大垣俊介(横浜流星)という2人の歌舞伎役者が登場します。

 私はどうしても俊介側の人間ですから、自然と彼の視点で物事を見てしまいます。

「京鹿子娘道成寺」の出番前に、半二郎が俊介に「お前には血がある。役者の血が守ってくれる」と励ますシーンがありますが、私もその言葉に共感してしまうところがあります。「血」を頼みの綱にしたくなってしまう時があるんです。

同じ血が流れていることは心の支え

 もちろん、稽古を重ね、教わったことを大切に舞台を勤めることは大前提です。しかし、いざ大役を勤める時、自分の先祖に思いを馳せ、同じ血が流れているということを、心の支え、ある種の拠り所にしてしまう時があります。

 一方、喜久雄に対して半二郎は「お前には芸がある。振りを忘れても、体は覚えている」と言います。しかしその後、半二郎の代役として「曽根崎心中」でお初を演じることになった喜久雄は、俊介に震える声で冒頭の言葉を伝えます。

 私が良し悪しを言える立場ではありませんが、いわゆる歌舞伎の「世襲」を象徴する場面でしょう。

 歌舞伎の世界で役者の子どもが舞台に立ったり稽古に通ったりするのは、特別なことではありません。

 私自身、7歳から舞台に立っていましたが、特別なことだと思ったことはないです。だって、周りには「今日はピアノだから」と帰る子がいれば、「サッカー教室がある」「塾に行かなきゃ」と話す友達もいる。私の場合、それが日本舞踊やお囃子だったというだけのことです。むしろ、私よりも多く習い事をこなしていた子もいたはず。そして、習い事がある日は友達と遊べないのは、みんな同じです。

次のページ 「血」以上に大切なこと