
移住のためにバルセロナから米ニューヨークの空港に降り立ったディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)のカップル。希望に満ちた2人は、しかし空港で職員に別室へ連れて行かれる。そして問答無用の尋問が始まり──?! 監督の実体験から生まれた心理サスペンス「入国審査」。共同で監督したフアン・セバスチャン・バスケスさん、アレハンドロ・ロハスさんに本作の見どころを聞いた。
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フアン・セバスチャン・バスケス:私たちはともにベネズエラ出身で、現在はバルセロナを拠点に活動しています。自分たちが実際に体験した恐怖である「入国審査」を題材に映画を作ろうと考えました。我々はともにカップルで2次審査室に連れて行かれた経験はありませんが、家族や友人のほとんどがアメリカ入国の際に酷い経験をしています。実際にカップルを別々に尋問し明らかにその関係性にひびを入れるようなことをされているんです。どんなカップルだって、あれをやられたら何かしら問題が浮上してきますよね?(笑)
アレハンドロ・ロハス:入国審査では名前や出身によって扱いが違います。ディエゴはベネズエラ出身で、私たちと同じように何度も尋問を経験しています。対してエレナはバルセロナの出身で、こんな扱いを受けるのは初めてなわけです。だから彼女は最初、係官にも反抗的な態度を取るのです。

バスケス:移民に対する差別や排除はトランプが開けっぴろげに行っているだけで、基本的にずっと変わっていません。
ロハス:そう、係官は私たちを「エイリアン」と呼ぶんです。そう言われたときの気持ちを考えてほしい。私たちは富を求めて新天地に行くわけではないんです。我々は祖国の政情不安と暴力的な状況から逃れるために世界を渡り歩き、スペインに辿りつきました。それでも市民権を獲得するのに10年以上かかっています。
さらに残念なことに現在スペインでも極右が台頭し、移民への圧力が増しています。誰にもさまざまな困難があると思います。しかしまず必要なのは「共感」です。自分がもし彼らの立場になったら? そう感じてもらえることができれば、少しの変化が起こるのではと期待しています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年8月4日号
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