筆者が投球を見ることができたのは続く準々決勝の東邦戦だ。1対1の同点で迎えた6回の1死一、二塁からマウンドに上がると、ヒットとボークなどで3点を勝ち越され、そのままチームも敗れたが、7回以降の2イニングは打者6人を完璧に抑える投球でポテンシャルの片鱗を見せた。

 188cm、93kgという堂々とした体格で姿勢も良く、マウンド上で大きく見える。ステップの幅が狭く、上半身の力が強い投げ方に見えるが、それでも前で大きく腕を振ることができており、打者に与える威圧感は相当なものがあった。ストレートは筆者のスピードガンで最速145キロだったが、下半身が使えるようになれば楽に150キロを超えてくることも期待できるだろう。またこの日は31球を投げてボール球はわずかに8球と、これだけの長身でありながら制球力を備えているというのも魅力だ。プロ志望届を提出するかについては明言を避けたが、貴重な大型サウスポーだけに注目している球団は多いだろう。

 享栄と同じ愛知の準々決勝で豊橋中央に敗れた杜若のエース、長塚陽太(3年・投手)も好素材だ。昨年秋まではチームメイトで左腕の西脇光世(3年・投手)の方が評判だったが、冬の間に大きく成長して春からはエースとなった右腕である。

 豊橋中央戦も8回に集中打を浴びて敗れたものの、7回までは1失点と見事な投球だった。この日の最速は筆者のスピードガンで142キロと目立った数字ではないが、リリーフで登板した時には145キロを超えるボールも投げ込んでいたという。

 そして、それ以上に目立ったのが高い制球力だ。この夏は15回1/3を投げて与えた四球はわずかに1個。豊橋中央戦も常にストライク先行で、ストレートだけでなくスライダー、カーブ、カットボールなどあらゆるボールでカウントをとることができていた。昔はスピードが天性と言われていたが、近年はコントロールの方が後から改善することが難しいと言われているだけに、これだけの制球力がある投手はかなり貴重である。フォームにも目立って悪いクセがないだけに、今後一気にスピードアップすることも期待できそうだ。

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