両替町通り、ちがう。

 室町通り、ここじゃない。

 衣棚通り、まだまだ。

 新町通り、ではないな。

 釜座通り、なんだよ「かまんざ」って。

 西洞院通り、まだ着かねえのかよ。

 小川通り、ここにきて地味な名前だな!

 油小路通り、「油小路」!? 暑苦しいなっ!

 堀川通り、聞いたことあるけど信号待ちでまったく日陰がなさすぎ!

 葭屋町通り、もうすぐか? もうすぐなのか!?

 黒門通り、もうええでしょ……。

 汗が入って、目が開かない。

 大宮通り……あった……ここだ。

 しかしまぁ「〇〇通り」多すぎ。まっすぐすぎ。角90度すぎ。暑すぎ。

 大宮通りを右に曲がって、しばらくフラフラするうちに今日の会場のライブハウス「拾得(じっとく)」に到着した。通りには開場を待っているお客さんが5、6人。私を見つけて声をかけてくる。

「ついたての虎を出してみやれ」みたいな

「あらー、いちのすけさんぅ」

「歩いて来たんですかぁ? おや、まあ」

「お元気ですねぇ」

「でも暑いでしょう、京都は?」

「ほんとにご苦労様ですぅ」

「いやまぁ、京都の暑さはどない?」

 なんか、暑いのを誇ってるみたいに聞こえるどす。同じ暑いとこにいるはずなのに、ちょっと涼風が吹きぬける高みから言われてるような。「ついたての虎を出してみやれ」みたいな。

 京都の人は暑さに強いのか?

 また拾得の楽屋がなかなかの暑さだったのだが、さすが老舗のライブハウス、お客さんとの距離も近くて声の響きもよく落語と相性は抜群。なんでも昔は桂枝雀が落語会をしていたそうだ。

 汗かいた分、打ち上げのビールが美味い。

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