
今年のオールスターゲームは、「話題性」にあふれる一戦となった。
まず、ストライク・ボールの判定に、来季から公式戦での導入が検討されている「ロボット審判」が取り入れられた。初回には早速、ツーストライクからのボールの判定に捕手と投手が「チャレンジ」を要求。機械の判定によってストライクに変更されて三振となった。この試合だけで、5度中4度、球審の判定が覆された。そして試合は、さらに異例の展開を見せる。九回終了時点でスコアは6対6の同点。延長戦は行わず、史上初の「スイング・オフ」によって勝敗が決まることになった。これは両チームの代表によるホームランの合計数を競うという、いわば「サッカーのPK戦」に近いルール。ナショナル・リーグのカイル・シュワバーが3スイング全てでホームランを放ち、劇的な形で終止符を打った。
しかし、それでも今年のオールスターゲームの視聴者数は719万人と、2023年に次いで史上2番目に少なかった(ニールセン調べ)。
先ほども述べたが、野球は他のエンタメとの熾烈な競争に晒されている。特に若年層の野球離れが進んでいる。SNS全盛の今、人々の集中力は長く続かない。メジャーリーグもその現実を直視しルールを変え始めている。投球間隔の短縮、守備シフトの制限、ベースの拡大などの改革を実施。かつてはタブーだったホームランを打った後にバットを派手に放り投げる「バットフリップ」もSNSで動画が拡散されやすいため「推奨」されるようになった。かつて保守的と言われたメジャーリーグが、今では“観せる競技”として進化を急いでいる。
だが、それでも最終的にファンの心を打つのは真剣勝負で生まれる名場面であり、選手の個性が光る瞬間だ。演出や仕掛けはあくまで入り口であり、記憶に残るのはその先にあるドラマである。そしてその鍵を握るのは、やはり大谷の二刀流とドジャースのような人気球団の躍進なのだ。
(在米ジャーナリスト・志村朋哉)
※AERA 2025年7月28日号より抜粋
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